紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。
「警告・禁忌を含む注意事項等情報」等は添付文書をご参照ください。
当記事内容は、症例本人の承諾を得て掲載しています。
ケーススタディシリーズ「PKU患者の声」
VoL.1

「みんなと同じものを食べたい」
という思いをきっかけに、
パリンジック®を導入した症例

監修岡山医療センター小児科
古城 真秀子 先生
岡山医療センター小児科 古城 真秀子 先生
希少疾患であるフェニルケトン尿症(PKU)の日常診療にお役立ていただけるよう、
パリンジック®治療の経過と、患者さんの声をお届けします。

症例背景

年齢
30歳代
性別
女性
PKU病型
古典型PKU
PKUの自覚症状
頭痛、仕事の優先順位が立てられない、物忘れ
パリンジック®導入前の
血中フェニルアラニン(Phe)濃度
1,387μmol/L
パリンジック®導入前の
タンパク質摂取量
30g/日
PKU治療歴
食事療法(タンパク質制限、治療用特殊ミルク)

パリンジック®導入の背景

これまでの日常生活での負担

日常生活では外食に困りました。高校の修学旅行が海外で、料理自体が何からできているか分からなくて、食事選択の判断に自信がなくて欠席しました。
血中Phe濃度が高くなると、頭痛や仕事の効率が悪くなるというか、優先順位が立てられないような症状や物忘れがありました。仕事中やプライベートでも予定を入れていたことを忘れることがありました。
血中Phe濃度が高いと注意散漫になるので、車の長時間の運転や知らない場所での運転が苦痛でした。

パリンジック®との出会い

日本で発売される前からアメリカで使用されていることは聞いたことがあり、いずれ日本にも来ると思っていました。いつ日本でできるんだろうと思っていたら、ついに発売という話を聞き、発売した次の月から始めました。

パリンジック®を決意したときの思い

ずっと食事制限をするのが嫌だと思っていたんです。家族でBBQをするときも、私は常にしいたけやさつまいも。BBQの楽しみが分かりませんでした。パリンジック®が出て、私もBBQを楽しめる日が来るかもしれない、と希望が出ました。ずっと注射を打たないといけないのは大変だと思いましたが、変わり映えのしない食事をするよりも、注射をしながらみんなと同じものを食べたいと考えて私は注射を選びました。

パリンジック®導入前の不安

副作用が出るとか、アナフィラキシーが起こる可能性があるという話を先生から聞いて、少し怖いなと思いました。

パリンジック®
導入した背景

古典型PKUの中でも重症な方で、厳格な食事療法でも管理目標値を達成することが難しい患者さんでした。パリンジック®を導入することで食事制限を緩められる可能性があることを伝えたところ、副作用のリスクも受け入れた上でパリンジック®の導入を前向きに考えてくれました。

パリンジック®開始後の経過

副作用

使用開始直後は発熱や注射部位の腫れが出ました。足に注射をしていたので、歩くのが大変なほどでした。開始からしばらくすると、投与頻度や用量を増加しても副作用は出なくなっていき、今は副作用はなく、最大用量(60mg/日)で継続しています。

副作用対策

過敏症対策として、エピナスチンとファモチジンを前投薬しています。
発熱・アレルギー出現時にはアセトアミノフェン及びプレドニゾロンの服用、アナフィラキシー出現時にはアドレナリン自己注射薬を投与後、病院に連絡するよう伝えています。

食事の変化

親が食事を厳格に管理していた頃でも血中Phe濃度が600μmol/Lを切ったことがなかったのですが、600μmol/L以下となり、低タンパク食品を使わずに、普通の白米を食べられるようになりました。先生からは血中Phe濃度が360μmol/Lまで下がったら、食事制限をもう少し緩められると言われています。
「食事の幅が広がること」が食の楽しみに繋がると思っていましたが、最近は「みんなと同じものを食べること」でコミュニケーションが広がるなと思います。これまで「何味のラーメンが好き?」という話題で、私は「ラーメン嫌い」で通してきました。食べたことがないのでそうやって話を終わらせていましたが、実際に食べられるものが増えたら、もっと話がふくらむと思います。

自覚症状の変化

パリンジック®を使い始めて1年程経ってから、頭痛の頻度が減り、優先順位も立てやすくなってきました。
長時間の車の運転が今は苦痛に思わなくなりました。これが凄く大きい変化だったなと思います。
人間関係の面では、PKUは遺伝の病気なので両親のせいだと思う気持ちや、PKUではない家族に対して感じていた劣等感が薄れ、家族関係が改善しました。

パリンジック®
導入にあたってのサポート

食事からのタンパク質摂取については、栄養士と連携して指導しています。

パリンジック®投与前後血中Phe濃度の推移

考察

この患者さんは、古典型PKUの中でも重症な方で、厳格な食事療法でも血中Phe値の管理目標値を達成することが難しい患者さんでした。パリンジック®が発売されてすぐに紹介し、副作用のリスクを理解してもらった上で使用を開始しました。導入前の血中Phe濃度は1,387μmol/Lでしたが、導入後は順調に低下し、約1年半で治療目標値である360μmol/L未満に到達しました。投与量は現在60mg連日投与で維持しています。

食事療法は栄養士と連携しながら指導を行っています。パリンジック®導入後は順調に経過し、低タンパク食から普通の白米にするなど、徐々に食事療法を緩和しています。タンパク質摂取量はパリンジック®の効果がみられるまでは30g/日でしたが、効果がみられてからは60g/日に増量しています。このまま順調に経過すれば、タンパク質摂取量のさらなる緩和も検討できます。

食事療法はPKU治療の基本ですが、患者さんには大きな負担です。「パリンジック®により血中Phe濃度が改善すれば普通の食事をとれるかもしれない」と伝えると、多くの患者さんは期待に胸を膨らませます。患者さんは食べられるものが増えることそれ自体だけでなく、他のみんなと同じものを食べることによりコミュニケーションが広がることを楽しみに感じているようです。一方で、食事療法を緩和することで、血中Phe濃度が上昇することやそれにより再び食事を制限しなければならなくなることに対して不安を抱えている方もいます。パリンジック®の効果が現れたときに、どのように食事療法を緩和していくか、患者さんとコミュニケーションをとりながら、それぞれの患者さんに合わせて丁寧に進めていくことが重要だと考えます。