フェニルケトン尿症に対する治療法ならびに
パリンジック®⽪下注における過敏症反応
本剤はPKU患者で欠損するPAHを代替し、PAHと異なる経路でPheをアンモニアとケイ皮酸に代謝することで血中Phe濃度を低下させる薬剤です。海外・国内第Ⅲ相試験において、有効性・安全性が報告されました1)-3)。血中Phe濃度を低下させる一方で、その製剤特性から、過敏症反応が現れることがあります。過敏症反応とはアナフィラキシー、蕁麻疹、発疹、呼吸困難、血清病、血管浮腫などです。アナフィラキシーについて解析を行ったところ、各エピソード発現時の本剤への特異的IgEは陰性であり1)2)、IgE非介在性のⅢ型アレルギー反応であると推測されました。本剤の投与開始から数週間後に起こる抗PAL抗体(IgG/IgM)、抗PEG抗体(IgG/IgM)などの抗体の出現・増加とともに過敏症反応も増加しますが、投与を継続すると抗体価は安定または減少し、過敏症反応による有害事象も減少していきます(図1)。

そのため、過敏症反応は特に導入時に配慮すべきことが示唆されます1)-4)。本剤の投与にあたっては、過敏症反応などの副作用に対応できるよう、医療機関が環境を整えるとともに、患者さん自身とそのご家族に教育を行い、本剤を継続することが重要であると考えます。
パリンジック®⽪下注導⼊前の
対策と症例の経過
古典的PKUの20代女性の症例です。新生児期よりPhe除去ミルクの投与と食事療法を行うも血中Phe値の高値が持続していたため、本剤を導入することになりました。アレルギー歴として気管支喘息・スギ花粉症があり、導入3ヵ月前からアレルギー担当医として主治医と連携を開始し、本剤導入に向けて準備を行いました(図2)。

成人喘息の5~10%にアスピリン喘息が存在するため5)、喘息患者の場合は本剤を導入する前にNSAIDs使用歴を確認する必要があります。本症例はNSAIDsの使用歴からアスピリン喘息の可能性は否定されましたが、アスピリン喘息ではCOX-1阻害作用が強い解熱鎮痛薬やコハク酸エステルステロイドは禁忌となっています。アスピリン喘息を否定できない状態で解熱鎮痛薬や静注用ステロイドを使用したい場合は、アセトアミノフェンやCOX-2阻害薬、デキサメタゾンやベタメタゾンが使用可能です。しかしながら、前述の薬剤などでもごくまれに症状を誘発したり、ステロイドの添加物が原因でアレルギー反応が生じたりする可能性もあります。本剤の副作用治療や予防を目的とした解熱鎮痛薬・静注用ステロイドの使用に備え、アスピリン喘息を疑う症例では、事前にアレルギー専門医への紹介を検討していただくことをお勧めします5)。
当院では、「導入初期観察用マニュアル」と「アナフィラキシー入院用マニュアル」を作成しました。「導入初期観察用マニュアル」には、アナフィラキシーの診断基準・初期対応手順、各臓器の治療としての抗ヒスタミン薬・気管支拡張薬、追加治療としてのステロイドの投与量などを記載しました(図3)。また、導入前診察ではアドレナリン注射剤の自己投与方法を患者さんに指導しています。


本剤の導入にあたっては、2.5mgを週1回投与の初回から5回目までは院内投与としました。投与後60分間は院内観察を行い、過敏症反応発現時に対応できるようにしました(図2)。投与時は前投与薬(解熱鎮痛薬・抗ヒスタミン薬)の内服を確認し、看護師の指導のもとで本剤の投与を行いました。投与後5分、10分、15分、30分、60分の間隔でバイタルおよび過敏症反応などを観察し、異常がなければ帰宅としました。
初回から5回目までの副作用ならびに対策と経過を以下の表に示します。
発現 タイミング |
症状 | 対策と経過 | |
---|---|---|---|
初回 | 帰宅後 | 軽微な頭痛 | アセトアミノフェン内服で改善 |
2回目 | 2日後 | 右大腿部に強い掻痒感を伴う注射部位腫脹・右膝に関節痛 | オロパタジン連日内服で3回目投与日には残存しているものの軽減 |
3回目 | 43分後 | 喘息様の軽度呼吸困難感 | プロカテロール吸入で改善 |
77分後 | 搔痒感を伴う注射部位腫脹 | オロパタジン内服およびクーリングで改善傾向を確認し、プレドニゾロン単回内服後帰宅 | |
2日後 | 注射部位腫脹の増悪 | ステロイドおよび抗ヒスタミン外用薬塗布で徐々に消失 | |
4回目 | 投与後院内にて | 注射部位に掻痒感のない小豆大の紅斑 | 対応を指導し経過観察 |
帰宅後 | 注射部位反応の増悪 | ステロイドおよび抗ヒスタミン外用薬塗布で改善が見られず、プレドニゾロン単回内服で徐々に消失 | |
2日後 | 喘息様発作 | ICS/LABA配合剤*の定期吸入を再開し改善*:吸入副腎皮質ステロイド薬/長時間作用型β2刺激薬配合薬 | |
頭痛 | ロキソプロフェン内服で改善 | ||
5回目 | 投与後院内にて | 注射部位に掻痒感のない小豆大の紅斑 | 対応を指導し経過観察 |
帰宅後 | 注射部位反応の増悪・関節痛 | プレドニゾロン、フェキソフェナジン内服で皮膚症状には改善が見られず、ステロイドおよび抗ヒスタミン外用薬塗布を追加し消失 | |
軽微な喘息様発作 | プロカテロール吸入で改善 |
6回目より自宅投与にて2.5mgを週2回投与へと漸増を開始しました。導入期の喘息発作を考慮し、漸増期は2~4週間に1回の頻度で喘息フォローアップと他の副作用の確認、副作用対策指導を行いました。その結果、本剤10mgを週4回投与まで漸増でき、現在も同量で継続しています(図4)。

パリンジック®⽪下注導⼊期・漸増期の
対策と本症例からの学び
本剤の導入期では、投与前から投与後まで院内観察を行うことで過敏症反応に早期に対応でき、帰宅後の対応についても時間をかけた患者指導が可能でした。
過敏症反応に対する抗ヒスタミン薬の使い分けとして、即時型反応に対し早期の症状改善を目的とする場合は最高血中濃度到達時間(Tmax)が短い薬剤を、長期的な効果を期待する場合は血中濃度半減期(T1/2)が長い薬剤を選択することが効果的です。導入期の難治性の関節痛・皮膚症状に対してステロイド内服はよく効きますが、皮膚症状に対してはステロイド内服の前に抗ヒスタミン薬内服やステロイド外用薬を検討すべきと考えます。抗ヒスタミン薬に関しては、蕁麻疹診療ガイドラインでも推奨されている倍量投与6)が効果的でした。ステロイド外用薬に関しては、Ⅱ群以上(顔はⅣ群)単剤を患部にしっかり塗布することで改善が得られました。ただし、塗布指導が非常に重要です。
パリンジック®皮下注はその製剤特性から過敏症反応などの副作用が懸念されます。本症例を経て、医療従事者および患者さんやご家族への教育により適切な対策を行うことで、本剤の漸増ならびに継続が可能であることが示唆されました。