はじめに
骨系統疾患の臨床的な特徴には,個々の疾患の発症頻度が低く希少であること,またその希少な疾患の数が非常に多いことの2点に集約される。その希少疾患のうち,本稿で取り上げる軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は,骨形成不全症(osteogenesis imperfecta)と並び頻度の高い代表的疾患である。本稿では,出生前診断としての胎児CT診断と出生後の新生児期の単純X線撮影の読影ポイントを紹介する。
胎児CT診断
1|利点と問題点
CT撮影はX線を用いた画像診断である。X線診断学はその長い歴史から数多くの完成された診断方法として成立しているが,CT画像の解釈は次項で述べる単純X線撮影の知見をそのまま活用できる利点が非常に大きい。
胎児のCT検査は,産科が行う胎児超音波にて四肢短縮が指摘され骨系統疾患が疑われた場合に,さらなる出生前の画像診断として20年ほど前から注目されてきた。胎児CTが臨床に導入されたもう1つの理由には,胎児MRIは骨格の描出が不良で,前述の過去のX線診断の知見を応用することができないからである。
近年,CT装置の検出器の多列化,逐次近似法の普及といったCT機器の進歩と画質の向上も胎児CTの普及に大きく関与してきた。また,最新の技術である人工知能(artificial intelligence:AI)の導入にも期待がもたれている。これらを駆使した3DCT画像は,骨系統疾患の出生前診断に非常に有用なツールである。唯一の欠点は,胎児の医療被ばくを避けることができない点である。
2|推奨CT撮影条件(表)
表に推奨される胎児CTの撮影条件を示す。胎児CTの撮影条件は,CT装置の再構成画像の種類によって異なる。現在多くのCT装置では逐次近似画像再構成法が使用可能と思われ,表の推奨で対応可能である。もしMBIR(model based iterative reconstruction)1)やAIやDeep Learning法が利用できる場合は,さらなる被ばく低減が可能である。
CTの被ばく線量のパラメーターには管電流(mA),管電圧(kV),ヘリカルピッチ,テーブルスピードなどさまざまあるが,CT線量指標(CT dose index:CTDIvol)はこれらをすべて包括し表現される優れた指標である。異なったCT機器の比較,異なった施設間の比較,国や調査の時期などを超え,被ばく線量の評価が可能である。
現在の推奨される胎児CT検査のCTDIvolは,2015年の全国調査結果の中央値である3mGyである2)。もし自施設のCT撮影の条件が調査結果の3/4値(75パーセンタイル値5mGy)を超えていた場合,これ以下に再設定し,なるべく中央値に近づけることが推奨される2)。
3|読影ポイント
図1, 2に胎児CT画像を示す。本例は次項の出生後の単純X線撮影(図3)と同一の症例であり,両者の比較をされたい。
胎児骨格CTには2種類の画像表示がある。Volume rendering(以下,VR法)と,maximum intensity projection(以下,MIP法)である。VR法はいわゆる3DCT画像の代表的な再構成画像であり,表面は白,黄色,赤など施設の放射線科医師や診療放射線技師の好みにより色付けされている。MIP法はCT画像の骨条件のモノトーンの表示である。筆者の施設ではVR法とMIP法の両方の再構成を行っているが,VRのみ,MIPのみの施設もある。
前述のごとく,CT画像はX線撮影と同じ解釈が可能であり,3DCTを読影する場合も次項の単純X線撮影と同じ観察点をチェックされたい。3DCTの再構成画像の利点は360度自由な角度から観察ができることと,見たい部位を切り出して観察するトリミングの手法が可能であることである。
筆者の施設ではルーチン再構成として,MIPでトリミングした骨盤骨のみを正面像から前後,左右の角度違いで観察している。この再構成にて水平臼蓋とtrident pelvisの有無の診断が容易となり,ACHの診断に役立てることができる(図2)。
単純X線診断の読影
各施設により撮影のルーチンは異なるも,多くは全身の骨格を頭部(正面・側面),脊椎(正面・側面),胸郭,左右上肢,手部,骨盤,左右下肢,左右足部を合わせて,12~15枚程度の撮影を行うのが標準的である。ACHには以下のX線学的異常を認める。
四肢:大腿骨,脛骨,上腕骨,橈尺骨などの長管骨の四肢短縮が目立つ。骨幹端は骨幹方向へ陥凹を呈する杯状変形(cupping)を呈し,骨幹端の横方向の末広がり(flaring,splaying)を認める。その形態はフレアスカートのような形態であり理解しやすい。大腿骨近位側は骨幹端の変形の形態が特徴的で,アイスクリームをすくう匙状の形態(ice cream scoop)を呈する。
骨盤骨:臼蓋は角度が浅く水平臼蓋を呈する。臼蓋の内側には骨棘状の突起がみられ,臼蓋の外縁とともに三点の突起を呈するtrident pelvisを呈し特徴的である。骨の形態は通常に比し小さく,四角い形態をしており,“アフリカゾウの耳サイン”と称される。これらの特徴は胎児CTでも認識が可能で,診断特徴的所見といえる。
脊椎:脊椎は胸腰椎移行部で後方に凸の形態を示す突背(thoracolumbar gibbus)を呈する。また,椎体の後縁は前方に凸の形態を示し,小弾丸状(bullet shape)である。
頭部:側面撮影で前頭骨の前額部が前方に突出するfrontal bossingを呈する。この変化は,ACHは内軟骨性骨化が障害されるため顔面骨,頭蓋底の低形成が生じるが,膜性骨化で発育する頭蓋冠は障害を受けないため,相対的に顔面が落ちくぼみ,前額部が突出する形態を示すためである。Frontal bossingも胎児CTで所見を認識することが可能な異常である。
手部:第3指と第4指の間隔が空くことで,第1指,第2,3指と第4,5指の3つのセグメントに分かれて見える形態変化をtrident handと呼ぶ。同所見は身体所見として知られているが,出生後の単純X線撮影では認識が可能である。胎児CTでは同所見の指摘は困難なことが多いが,筆者の施設では前述の骨盤骨のトリミングと同様,手部のトリミングを行い,左右の手の形態を観察している。
まとめ
軟骨無形成の出生前胎児CT診断について,その利点を述べ,胎児の医療被ばく過多に注意するよう推奨される撮影条件を示した。また,出生後の単純X線撮影上の代表的な異常所見を示した。ACHは治療薬が開発されたため,出生前および出生直後の正確な画像診断が以前に比し高まる可能性がある。
References
- Imai R, et al. AJR Am J Roentgenol. 2017 ; 208 : 1365-72.
- Miyazaki O, et al. AJR Am J Roentgenol. 2017 ; 208 : 862-7.