Knowledge Sharing No.1 2024年10月発行 紹介した症例は臨床症状の一部を紹介したもので,
全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

胎児期から新生児期における認定遺伝カウンセラーのかかわり 秋山奈々先生

遺伝カウンセリングと認定遺伝カウンセラー

遺伝カウンセリングは,「疾患の遺伝学的関与について,その医学的影響,心理学的影響および家族への影響を人々が理解し,それに適応していくことを助けるプロセス」と定義されている。このプロセスには,①疾患の発生および再発の可能性を評価するための家族歴および病歴の解釈,②遺伝現象,検査,マネージメント,予防,資源および研究についての教育,③インフォームド・チョイス(十分な情報を得たうえでの自律的選択),およびリスクや状況への適応を促進するためのカウンセリング,などが含まれる。このように遺伝カウンセリングでは「医学的情報提供」と「心理社会的支援」が大きな2つの軸となっている。

一般的な遺伝カウンセリング対応の流れ
一般的な遺伝カウンセリング対応の流れ

(文献1より改変)

一般的な遺伝カウンセリングの流れをに示す。遺伝に関する相談や遺伝学的検査の相談があったとき,どの疾患に対してどのような検査を提案するかを検討し,検査前後の情報提供と心理社会的支援を行い,必要に応じて血縁者へのフォローへと進む。ケースによっては一度の来談で対応が終了することもあれば,複数回の来談を経ても最終結論に至らない場合もある。また,遺伝カウンセリングでの対応時間も症例によってさまざまである。

遺伝に関する相談を受けたからといって,すべての症例に対して1時間以上の時間をかけた遺伝カウンセリングが必要とされているわけではない。遺伝カウンセリングは相談内容によって一次遺伝医療から三次遺伝医療に分けられ1)(表)2),担当医が外来にて対応を行う症例から,各領域の医師とともに認定遺伝カウンセラーが協働して対応を行う症例,臨床心理専門職などの多職種を含めたチームとして対応を行う症例と,その診療体制は幅広い。相談者であるクライエントと医療者の双方にとってよりよい遺伝カウンセリングが実現できるよう,それぞれのスタッフが遺伝医学の基本的な知識を身につけること,相談の内容に合わせて適切な遺伝カウンセリングの担当者と連携できる体制を準備することが重要であると考える。

遺伝カウンセリングの診療体制
遺伝カウンセリングの診療体制

(文献2より作成)

このような遺伝カウンセリング・遺伝医療にかかわる専門職の一つが,認定遺伝カウンセラー(certified genetic counselor:CGC)である。CGCは日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会によって制定された「認定遺伝カウンセラー制度規則」に基づいて,両学会から認定される資格である。認定されるためには,認可を受けた養成課程(大学院修士課程)を修了すること,認定試験に合格することなどの条件が設定されている。日本国内には,374名のCGCが認定を受けている(2023年5月現在)3)

多くのCGCは病院やクリニックで医師や看護師などのほかの医療従事者とともに勤務しているが,その活躍の場は医療機関以外にも広がっている。遺伝医学に関する専門的な知識とコミュニケーションスキルを活かして,製薬企業や臨床検査センターなどで勤務しているCGCも増えている。また,大学や研究施設などに教育に携わったり,遺伝カウンセリング・遺伝医療や遺伝性疾患に関する研究に取り組んでいるCGCも存在している。

ACHの遺伝カウンセリング

胎児エコーの技術が発達したこと,疾患認知が広がったことから出産前から軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)の可能性を指摘される症例,またこれまでと同様に,出産後に症状から疾患の可能性を指摘される症例,前児が本症と診断されたカップルが次子を検討する症例,さらには当事者が親となる症例と,「遺伝」に関する相談が生じる場面はさまざまである。ライフイベントのどの場面においても,「遺伝」にかかわる話題はついてまわる。

特に妊娠中や出産後に初めて疾患の可能性を指摘されたとき,両親や家族は突然の情報に驚く。これまで聞いたことがない病名,自分たちの子どもはどう育っていくのか,学校生活は「普通に」送ることができるのか,将来自立することはできるのか? といった疑問も同時に生じるかもしれない。

まずは家族の動揺を受けとめ,児に関する正確な情報提供とその理解のサポートが重要となる。医師とともに遺伝カウンセリングのなかで情報提供をする際,筆者自身が意識していることは,①現時点で確実に言い切れること,②現在ある情報から推測できること(将来的な可能性も含めて),③時間をかけて経過をみていく必要があること,④その他の4つの視点から情報を整理して伝えることである。

また心理的動揺が大きく,新たな情報を処理することが難しい状況にある家族もいるため,どういった心理状況にあるのか,情報を得ることが先に進む力になる状況かという点は,関連する複数のスタッフとアセスメントを共有しながら対応を検討している。あまりに動揺が大きすぎる場合には,心理的ケアを優先し,まずは家族からの語りを傾聴することを優先したセッションを組み立て,遺伝カウンセリング担当の医師に提案し,実際のセッションについて具体的な流れを検討している。心理的危機状況にある家族に対しては心理専門職や心療内科・精神科などの医師との連携も必要となる。

遺伝カウンセリングのセッション内だけで対話するだけでなく,入院中であれば出生後も児と家族の愛着形成をサポートするスタッフの一人として,ベッドサイドでの面談などを行うことも信頼関係を築いていく材料の一つとなるかもしれない。

児が成長していく過程における児本人への情報開示(治療や体質にかかわる説明)では,発達段階に合わせた情報提供,継続的なかかわりが重要となる。ACHでは一般的に,粗大運動の発達は一次的に遅れるが筋力の発達とともに年齢相当となり,知的発達には問題はないとされている。大人になったとき,ACHと上手く付き合いながらその人らしい一生を送っていくため,治療や通院を継続していくなかで児が感じる「なぜ?」に丁寧に答えていくことはとても重要なプロセスになると考える。また,病院以外の場所で児からの「なぜ?」を投げかけられたとき,家族が感じる「何て答えればいいんだろう……?」という戸惑いに対してもサポートが必要である。

児本人から投げかけられる質問としては,例えば以下のようなものがある。
「(周りのお友達は違うのに)なぜわたし/ぼくは毎日注射を打たなきゃいけないの?」
「(周りのお友達は違うのに)なぜわたし/ぼくは手術を受けなきゃいけないの?」
「(周りのお友達は違うのに)なぜわたし/ぼくは病院に通っているの?」
「(周りのお友達は違うのに)なぜわたし/ぼくは背が低いの?」

その時々の児の疑問に対する答えや治療にあたって理解してほしい情報を,嘘をつかずに,児が理解できる言葉や流れで伝えていく。その準備にあたっては医療者間だけでなく,医療者と家族の相談も必要となる。家族が児の疾患をどのように理解しているか,受容しているかは,児からの「なぜ?」に答えていくプロセスでは大きく影響を与える要因となる。情報を伝えた後,自宅や学校での生活をサポートしていく主体は医療者ではなく家族となるため,土台となる家族の気持ちが揺らいでいないか,児への情報開示について心の準備が整っているかを慎重に見極める必要がある。そこに向かっていくためにも,診断初期からの家族への適切な情報提供,さまざまな疑問や不安に対する心理社会的支援が,将来的な児へのより適切なサポートにもつながっていくことを改めて強調したい。

また成人移行にあたっては,児本人が医療を受ける主体として自分自身のことを医療者と共有できるような準備が必要となる。疾患全体に関する理解の確認,今後の継続的な受診の必要性,将来起きうる合併症とそのサーベイランスなど,健康管理に関する情報だけでなく,遺伝学的検査の結果,次世代への遺伝の可能性,女性の場合は妊娠出産に関する留意点についても,本人のニーズに合わせて説明を行う。一度に多くの情報を整理しきることは誰にとっても大変なことであり,特に普段の診療のなかで話題になる場面が少ない遺伝学的情報についてはなおさらである。小児科を卒業した後も,遺伝に関する困りごとや悩みが出てきた場合には,成人医療機関の遺伝カウンセリングの窓口を活用できること,人生のどのタイミングでも相談できることを再度確認するように努めている。

ACHは単一診療科のみではなく,複数診療科(出産前からであれば産婦人科,新生児科,内分泌科,整形外科,脳神経外科,耳鼻咽喉科,遺伝診療部門など)で,複数のスタッフ(医師,看護師,薬剤師,作業療法士などのメディカルスタッフ,CGCなど)が連携して診療にあたり,コミュニケーションをとりながら対応することが望ましい疾患の一つである。産婦人科から新生児科,小児科へとシームレスな対応を行う際の並走者として,診療科横断的に対応ができる認定遺伝カウンセラーという職種は候補の一つとなり得るかもしれない。

References

  1. 日本認定遺伝カウンセラー協会.遺伝カウンセリングの実際と認定遺伝カウンセラーの役割.
    https://jacgc.jp/medical/role.html(閲覧:2024-10-29)
  2. 福嶋義光(監).櫻井晃洋(編).遺伝カウンセリングマニュアル改訂第3版.東京:南江堂;2016.p.28.
  3. 日本認定遺伝カウンセラー協会.認定遺伝カウンセラーとは.
    https://jacgc.jp/public/(閲覧:2024-10-29)
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