背景
ボソリチドは軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)の新規治療薬として開発された,遺伝子組換えC型ナトリウム利尿ペプチドアナログ製剤である。5~18歳のACH小児を対象とした臨床試験(111-301/302)において,プラセボに対しボソリチドによる年間成長速度(AGV)の増加が確認された1,2)。さらに,低年齢での安全性と有効性を評価する目的で,5歳未満のACH小児を対象とした臨床試験(111-206)が行われた。
方法
16施設(オーストラリア2施設,日本3施設,英国2施設,米国9施設)で施行された二重盲検無作為プラセボ対照第Ⅱ相試験。対象は遺伝学的に確定された60ヵ月未満のACH小児で,スクリーニング時の年齢に基づいて3つのコホート(24~59ヵ月:コホート1,6~23ヵ月:コホート2,0~5ヵ月:コホート3)に登録された。各コホートに用量決定のため少数のボソリチド投与群(センチネル群)が設定され,それ以外の被験者は各コホート内で無作為にボソリチド群とプラセボ群に1:1で割り付けられた。ボソリチド群では2歳未満で30.0µg/kg,2歳以上では15.0µg/kgのボソリチドが52週間投与された。
主要評価項目として,①安全性および忍容性,②ベースラインから52週後の身長Zスコアの変化,副次評価項目として,立位身長または体長の変化,AGV,上節下節比,ポリソムノグラフィーによる睡眠時無呼吸の評価,頭部MRIによる形態分析,骨代謝マーカーの変化,機能的自立度と健康関連QOL(health-related quality of life:HRQOL)の評価が解析された。
結果
2018年5月13日から2021年3月1日までに,75例[女性37例(49%)]が組み入れられ,センチネル群11例に加えて,無作為にボソリチド群32例,プラセボ群32例が割り付けられた。治験中止は2例[ボソリチド群1例:死亡(RSウイルス細気管支炎および乳児突然死症候群),プラセボ群1例:中止],有害事象は被験者75例全員で発生し(ボソリチド群204.5件/人・年,プラセボ群73.6件/人・年),大部分は一過性の注射部位反応および注射部位紅斑であった(表)3)。重篤な有害事象は,ボソリチド群3例(酸素飽和度の低下,肺炎,RSウイルス細気管支炎および乳児突然死症候群),プラセボ群6例(小発作てんかん,自閉症,胃腸炎,呼吸困難,嘔吐およびパラインフルエンザウイルス感染,頭蓋骨骨折および中耳炎)に認めた。投与後の血圧変化はボソリチド群の1例を除き,軽度,一過性,無症候性であり,その1例の症候性低血圧についても介入なしで回復した。
ボソリチド群とプラセボ群でのベースラインから52週後での身長Zスコアの変化に対する最小二乗平均(least square mean:LSM)差は0.25(95%CI:-0.02-0.53)であった(図1)3)。その他の成長パラメータとして,AGVのLSMは0.78cm/年(95%CI:0.02-1.54)の増加,上節下節比のLSMは-0.07(95%CI:-0.17-0.04)の変化であった(ANCOVA)。
頭部MRIによる形態分析(大後頭孔の面積,顔面および副鼻腔の容積)では,最年少児であるコホート3で最も成長が急速でボソリチド投与による変化が大きかった(図2)3,4)。コホート3におけるボソリチド群対プラセボ群のベースラインから52週目までの各パラメータの増加は,顔面容積は44%対34%,副鼻腔容積は129%対48%,大後頭孔面積は44%対25%であった。
睡眠検査指数に悪化はなく,ボソリチド群ではわずかな数値的改善が示された。健康に関連した生活の質の評価では,臨床的に意味のある差異は両群間で認めなかった。
結論
3~59ヵ月齢のACH児において,身長ZスコアのLMS変化に関するボソリチド群とプラセボ群との差は,5歳以上のACH児で観察されたもの1)と一致していた。両群間での上節下節比の52週時点のLSM差が負であることから,ボソリチドはプロポーションの悪化を引き起こさなかったと結論できる。最年少のコホート3では52週時点において,ボソリチド群でプラセボ群よりも顔面容積,副鼻腔容積,および大後頭孔面積の変化が大きいことが示された。
ボソリチドは5歳未満のACH児に対しても成長速度および主要な成長パラメータにおいて有意な改善をもたらした。ボソリチド治療の有効性の持続と潜在する有害事象を評価するために長期フォローアップが必要であり,特に乳幼児突然死のリスクや脳神経外科的介入の必要性といった重大な医療上の問題に関するさらなる知見が期待されている。
本稿は,The Lancet Child & Adolescent Healthに2023年11月にオンライン公開された,5歳未満のACHに対するボソリチドの第Ⅱ相臨床試験に関する論文の紹介である。5歳未満の低年齢のACH児においてもボソリチドの身長増加に対する有効性が示されたことで,成長の時期にある小児において年齢の制限なく治療が可能となったことは意義深いことと考える。その一方で,治療効果を適正に評価する必要があることも,本研究のコホート別の治療効果の結果から読み取ることができる。
たとえば,2歳未満の身長増加を評価する場合には,健常児での身長の変化が年齢によってどのような推移をとるのか,またそれらについてACH児の自然歴ではどうであるかを理解しておく必要がある。健常児のAGVは出生から2歳にかけて減少傾向となり,それはACH児についても同様であるとともに,その程度はACH児でより強い5)。したがって,この時期はACHの身長標準偏差(standard deviation:SD)を健常児で評価した場合には低下傾向を呈することとなる。
このことは図1にも示されており,コホート間の身長SDを見比べた場合に,ベースラインにおいてコホート1に比較してコホート3では身長SDが低値である。ボソリチド治療により各コホートで身長SDは改善傾向にあり,コホート3でも身長SDは改善しているが,52週時点でのコホート3の身長SDはコホート1およびコホート2のベースラインの身長SDよりも低値である。ACH児の自然歴と比較した場合には,ボソリチド治療により身長SDが改善傾向にあるとしても,健常児と比べると身長SDの改善に乏しいようにみえるため,誤ってボソリチドによる治療効果を過小評価しないように注意を払う必要がある。
また,ACHでは頭蓋底の軟骨結合が早期に閉鎖するために頭蓋底の成長が妨げられ,大後頭孔の狭窄が生じるとされる6)。早期の治療介入により,軟骨結合の閉鎖に対して猶予をもたせることができれば,頭蓋頸椎移行部狭窄による脊髄圧迫のリスク低減につながる可能性が考慮される。一方で,ACH児の大後頭孔狭窄の程度は同年齢においても軽重には幅があり,軟骨結合の部位によっては早期閉鎖の時期も一定しないことが示唆される7)。
本研究において,頭部MRIによる形態分析による結果に関して著者らが述べているように,生後6ヵ月未満のACH児においては大後頭孔の面積,副鼻腔および顔面の容積のベースラインからの変化が大きいことから,ボソリチド治療による顔面中央部低形成や頭蓋頸椎移行部狭窄に対する改善の可能性が期待される。しかしながら,著者らもlimitationとして述べているように,本研究は希少疾患に特有の問題である症例数の限界から,特に最も低年齢の生後6ヵ月未満の結果を元に結論を決定づけることは難しいと考えられる。実際にボソリチド治療により大後頭孔狭窄の程度が軽減し,脊髄圧迫のリスク低減につながるのかは,今後のさらなるエビデンスの蓄積が必要であると思われる。
本研究により,5歳未満のACH児においてもボソリチド治療の安全性と有効性が示され,身長増加に対して有意な改善が得られることが明らかとなった。一方で,ボソリチド治療の有効性の持続と潜在する有害事象を評価のためには長期フォローアップが必要であり,長期治療研究の解析により,乳幼児突然死のリスクや脳神経外科的な治療介入の必要性といった重大な医療上の懸念に関して,さらに詳しい洞察がもたらされることが期待される。
References
- Savarirayan R, et al. Lancet. 2020 ; 396 : 684-92.
- Savarirayan R, et al. N Engl J Med. 2019 ; 381 : 25-35.
- Savarirayan R, et al. Lancet Child Adolesc Health. 2024 ; 8 : 40-50.
- BioMarin社内資料:111-206試験総括報告書.
- Hoover-Fong JE, et al. Am J Clin Nutr. 2008 ; 88 : 364-71.
- Matsushita T, et al. Hum Mol Genet. 2009 ; 18 : 227-40.
- Calandrelli R, et al. Neuroradiology. 2017 ; 59 : 1031-41.