
軟骨無形成症(ACH)は骨系統疾患の1つであり,生涯を通じて多彩な合併症を呈する。乳幼児期においても大後頭孔狭窄や睡眠時無呼吸,中耳炎など多彩な合併症を呈するため,多科連携が求められる。そこで本座談会では,合併症を有するACHの乳幼児を速やかに専門医へ紹介し,早期治療につなげ,ACHの患者さんとご家族の長い人生をサポートするため,小児科,脳神経外科,耳鼻咽喉科,小児看護を専門とされる先生方にお集まりいただき,それぞれの視点からACHの合併症の評価,治療,管理,さらに将来の自立を視野に入れた合併症予防についてもディスカッションいただいた。
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軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)の乳幼児期にみられる合併症として,大後頭孔狭窄,睡眠時無呼吸,鼻腔狭窄や扁桃・アデノイド肥大による上気道閉塞,中耳炎などがあります。
さらに,乳幼児期の0~5歳は,社会化において四肢短縮・低身長などの身体的特徴に伴う心の問題を避けて通ることはできません。そこで本座談会は「乳幼児期における合併症とその管理,治療」と題し,本領域のエキスパートの先生方とディスカッションしていきたいと思います。
1|大後頭孔狭窄の病態と評価
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はじめに,乳幼児期の重要な合併症である大後頭孔狭窄の病態と評価について、安藤先生にご解説いただきます。
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ACHでは内軟骨性骨化の障害により頭蓋底が低形成となるのに対し,膜性骨化で発育する頭蓋冠は障害を受けません。このため,大後頭孔は狭窄し,頭蓋冠は拡大します。大後頭孔は主に後頭鱗・底部・両側顆部で形成され,これらをつなぐ蝶形骨後頭骨軟骨結合(spheno-occipital synchondrosis:SOS),前後頭骨内軟骨結合(anterior intraoccipital synchondrosis:AIOS),後後頭骨内軟骨結合(posterior intraoccipital synchondrosis:PIOS)の軟骨結合が重要となります。特にPIOSは健常児では4歳頃に癒合しますが1),ACH児ではより早期の1歳頃に癒合し,大後頭孔後縁の発育不全から大後頭孔狭窄となる傾向が認められます(図1)。特に頭蓋頸椎移行部における圧迫変形を認める症例は重症度が高く,大後頭孔減圧手術の適応となります。
大後頭孔狭窄の評価時期は施設や個々の症例によって異なります。当科でMRIによる初回画像評価を行った18例のうち,38%が月齢6ヵ月以内,72%が月齢12ヵ月以内でした。初回画像評価は月齢6ヵ月以内が望ましいと考えていますが,評価後に狭窄が生じる場合もあるため,最適な初回画像評価時期および定期的評価の間隔については今後,議論を深める必要があります。
図1軟骨無形成症(ACH)患者の大後頭孔狭窄 (安藤亮先生ご提供)
大後頭孔狭窄の評価ツールの1つにachondroplasia foramen magnum score(AFMS)があります。頭蓋頸椎移行部での髄液信号の有無,脊髄扁平化,髄内信号変化(T2 強調画像;T2WI)をスコア化したもので,脊髄扁平化があるが髄内信号変化を認めない場合はグレード3,脊髄扁平化と髄内信号変化を認める場合はグレード4となります2)。ただし,狭窄が強くても脊髄浮腫が検出できない場合があるため,AFMSグレードと重症度は単純な相関ではないと考えています。
2008年から現在までに当科に紹介されたACH患者18例のうち,13例が手術適応となりました。矢状断面の有効脊柱管前後径(space available for the cord:SAC)をみると,手術適応例では平均5.2mm,手術非適応例では平均10.7mmで,手術適応例で有意に狭いことが明らかになりました(t検定,p<0.05)。また,横断面での大後頭孔部の面積は手術適応例では平均50mm2,手術非適応例では平均84mm2で,やはり手術適応例で有意に狭いといえます(t検定,p<0.05)。
ACHは大後頭孔自体が狭いため,MRI撮影シーケンスはT2WIの矢状断・水平断を撮像し,複数の方向から評価しています。水平断のスライス厚は2mm,ギャップは0.5mmの条件で撮影し,圧迫や信号変化の有無を確認します。またHeavy T2強調3D画像というシーケンスで撮影することで,より高分解能な画像で構造を確認することができます。
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ありがとうございました。MRIの評価前に日常診療で注意すべき大後頭孔狭窄の症状や神経学的所見はありますか。
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大後頭孔狭窄による症状として中枢性無呼吸や運動発達の遅延がよく挙げられますが,ACHで無呼吸を認める場合は閉塞性が主体であることが多く,運動発達の遅延も大後頭孔狭窄の有無を問わずACHで一般的にみられる症状です。一方,体幹が後ろに反り返る後弓反張位には注意が必要です。当科で手術適応となったACHのうち,約4割の乳幼児で後弓反張が認められ,除圧後に改善しました。神経学的症状の判別が難しい乳児期でも後弓反張位は比較的発見しやすい徴候と考えています。
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MRI撮像時期について,窪田先生はどうお考えでしょうか。
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ボソリチドが0歳から使用可能となったこともあり,より早期に初回画像評価を行うようになりました。鎮静リスクも勘案し,月齢3~4ヵ月で一度評価する必要があるかと思います。
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MRI撮像時の鎮静はリスクになりますが,過度の前屈状態を避けるポジショニングを工夫することで神経圧迫の回避,気道確保などが可能になり,安全に画像評価ができると思います。
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専門施設では安藤先生が指摘されたようなポジショニングにも注意を払い,モニタリングしながら撮像できますので,乳幼児のMRI撮像に慣れていない場合はご紹介いただくとよいかと思います。
2|大後頭孔狭窄の治療
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ACHにおける大後頭孔狭窄の治療について,引き続き安藤先生にご解説いただきます。
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当科の大後頭孔減圧手術では,頭蓋骨をピンで固定し,経頭蓋電気刺激による運動誘発電位モニタリングを行い,ポジショニングや神経学的負荷を確認しながら手術を進めます。ピンで固定することで頭蓋骨が頭側に牽引され,後頭骨と第1頸椎の間にスペースが生まれ,椎骨動脈に緊張がかかり安全に手技を行いやすくなります。骨成分を削り,脳幹や脊髄が入っている硬膜管を,後頭骨から掘り出すようにして減圧します。最終的に大後頭孔の外側まで除圧します。手術前にAFMSのグレード3の神経圧迫があった症例が手術で除圧され,神経圧迫が解除されたことで髄内の信号変化を認めるグレード4となりました(図2)。
当科で手術を施行したACH 13例の全例が除圧を達成し,大頭後孔の神経損傷および周術期合併症はみられませんでした。1例で術後に環軸椎回旋位固定が生じましたが,2週間の頸椎カラーで改善が得られました。長期的経過では3例で無症候ではあるものの再狭窄の所見を認めています。
図2大後頭孔狭窄の減圧手術による改善 (安藤亮先生ご提供)
大後頭孔狭窄の評価ではMRIによる神経圧迫・髄液腔の確認,CTによる骨形態・軟骨癒合・骨棘の確認を行いますが,CT検査は放射線被曝の問題があります。このため,近年CT検査の代替手段として骨形態を描出できるMR bone imagingが臨床で使用されてきています。ACH診療においても,初回画像評価のMRI撮像時に骨の情報も併せて取得することで,手術を必要とするハイリスク例が抽出可能になるかもしれません。
手術はACHの根本的な治療法ではないため,将来的には大後頭孔の再狭窄を生じる可能性があります。ボソリチドはACHの病態に即した治療法であるため,このようなボソリチドをはじめとする薬物治療と手術を組み合わせることで,よりよい管理につながっていくのではと期待しています。
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ありがとうございました。窪田先生,どのようなタイミングで大後頭孔狭窄のACHの乳幼児を脳神経外科に紹介されますか。
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脳神経外科の先生方と連携して診療するため,当科ではできるだけ早期に紹介します。月齢3~4ヵ月時にMRIを撮像し,次は半年後に画像評価をすることが多いです。
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ボソリチドが新生児期から導入できるようになり,大後頭孔狭窄への影響を今後エビデンスとして蓄積する必要がありますね。
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軟骨結合の癒合時期は個人差があり,手術非適応となるACH症例では1~2歳になっても軟骨結合が癒合していないケースを経験します。手術を必要とする重症ACH症例がいる一方で,軽症例に対して早期からボソリチドを導入することにより,癒合時期が健常児に近づき,大後頭孔が成長する時間を獲得できる可能性も仮説として考えられます。ボソリチドの導入によって大頭後孔狭窄が自然歴とどう変わっていくかは今後の検討課題であり,より多数例でのデータが求められます。
1|ACHに合併する睡眠時無呼吸の病態と治療
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続いて,ACHの乳幼児期にみられる睡眠時無呼吸について守本先生にお伺いします。
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ACHは前顎部の突出,鼻根部の陥凹,顔面正中部の低形成および頭蓋底急峻などの特徴的な構造を有するため,鼻咽腔の狭窄が生じます。この構造に相対的なアデノイド・口蓋扁桃肥大が加わることで閉塞性無呼吸が悪化すると考えられます。ACHの睡眠時無呼吸には閉塞性のみならず,大後頭孔狭窄による中枢性の要素が影響します。
当センターで大後頭孔減圧手術,アデノイド切除術・扁桃摘出術(アデトン)を施行したACH症例10例で手術・治療のタイミングを後ろ向きに解析しました(図3)3)。その結果,大後頭孔減圧手術を受けた5例の平均年齢は2歳5ヵ月,アデトンを受けた10例は3歳10ヵ月,うち再手術を受けた3例は6歳2ヵ月,成長ホルモン(growth hormone:GH)補充投与を開始した6例は4歳3ヵ月でした。7例が手術の効果を認め経過観察となっていますが,3例では手術の効果が限定的で,持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)や在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT)などのほかの治療が必要となりました。
10例のうち,CPAPの導入を要した症例4をご紹介します(図3)3)。いびき・睡眠中の陥没呼吸が2歳時に出現し,アデノイド・扁桃肥大を認めました。終夜経皮的動脈血酸素飽和度(percutaneous oxygen saturation:SpO2)測定で酸素飽和度低下指数(oxygen desaturation index:ODI)4%が24と重症睡眠時無呼吸であり,閉塞性と考えられたため3歳時にアデトンを施行しました。術後にいびきは改善,ODI 4%が7.1と睡眠時無呼吸は軽減したため,3歳時にGH補充投与を開始しました。しかし4歳時よりいびき再燃,ODI 4%も30.5と重症睡眠時無呼吸が疑われ,中枢性の要素も考慮し,大後頭孔減圧手術を施行しました。術後にいびきは改善したものの,6歳時に再燃し,ODI 4%は41.4と閉塞性睡眠時無呼吸の増悪が認められました。本症例ではアデノイド肥大は軽度であり,構造的に鼻咽喉自体が狭いことが再燃の原因と考えられたため,CPAPとなりました。
図3上気道手術を施行した軟骨無形成症(ACH)10例の治療と経過 数字:酸素飽和度低下指数(ODI) 4%,減圧術:大後頭孔減圧手術,アデトン:アデノイド切除術・扁桃摘出術,GH:成長ホルモン投与,HOT:在宅酸素療法,CPAP:持続陽圧呼吸療法。
(文献3より作成)
このようにACHではアデトン,大後頭孔減圧手術を受けても改善が得られない症例を経験するため,保存的治療を含めた多科連携による管理が重要となります。さらに今後,新生児期より導入可能となったボソリチドがアデノイド・扁桃肥大を悪化させずに継続可能であれば,乳幼児期における睡眠時無呼吸の治療も大きく変わる可能性があります。今後,睡眠時無呼吸や閉塞性無呼吸を来すACH症例においてボソリチドがどのような効果をもたらすか,期待して治療導入していきたいと考えています。
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ありがとうございました。閉塞性無呼吸が好発する年齢やタイミングはありますか。
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ACHの乳幼児では2~3歳頃からいびきが出現します。当院では内分泌科でGH補充投与を開始する前にアデノイド・扁桃肥大や睡眠時無呼吸の評価目的で紹介され,症状が認められる場合はGH補充投与の開始前にアデトンを行います。
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当院もGH補充投与開始前に3割前後のACH症例がアデトンを受けています。タイミングとしてはGH補充投与の開始前に評価するほか,臨床症状があればMRI撮像時の入院でパルスオキシメータによる簡易スクリーニング検査を行うとよいかと思います。
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当院でも脳外科でMRI撮像時の1泊入院で簡易検査を行い,無呼吸があれば耳鼻咽喉科に送られてくる流れになっています。
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安藤先生,脳外科のお立場で耳鼻咽喉科とはどのように連携されていますか。
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当院でも睡眠時無呼吸を疑う症例のみ耳鼻咽喉科に紹介し,簡易検査をお願いしています。当科で診療しているACHは18例中16例が耳鼻咽喉科で評価を受け,そのうち半数がアデトンを受けていますので,無呼吸において閉塞性の要素は大きいと感じています。
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守本先生,小児科医が耳鼻咽喉科に紹介する具体的な基準やタイミングはありますか。
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簡易検査で無呼吸低呼吸指数(apnea hypopnea index:AHI)が1以上,すなわち睡眠1時間あたり1回以上の無呼吸があればご紹介いただきたいと思います。重症睡眠時無呼吸に風邪などが合併するとMRI撮像時の鎮静でリスクが高まりますので,MRI撮像前に簡易検査を施行してもよいでしょう。タイミングとしては2~3歳頃,GH補充投与開始前,MRI撮像時の入院のほか,有症状時にはその都度検査を行います。親御さんが夜間寝ている姿を動画で撮影し,診察時に見せていただくだけでも判断材料になります。
2|ACHに合併する中耳炎の病態と治療
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続けて,乳幼児期のACHに合併する中耳炎の病態と治療についても守本先生にお伺いします。
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ACHでは耳管の能動的な開閉を担う筋力や軟骨の発達が妨げられて耳管の開放が常態化し,アデノイド肥大や構造上の上咽喉狭窄などにより貯留した鼻汁が耳管へ流れ込み,滲出性中耳炎から難聴につながると考えられます。聴力が低下すると言葉の発達が遅れてしまうため,速やかに鼓膜チューブ留置術を行います。ただし自覚症状が乏しい滲出性中耳炎は早期発見が困難であることから,ACHの乳幼児は耳鼻咽喉科を定期受診いただくことが重要かと思います。
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ありがとうございました。窪田先生,小児科のお立場ではどうお考えですか。
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守本先生がご指摘されたとおり,滲出性中耳炎は言語の発達に影響するため早期発見が重要となります。近医でかかりつけの耳鼻咽喉科をもっていただき,定期的に通院するよう親御さんに伝えています。
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チューブが抜けて鼓膜が閉じると滲出性中耳炎は再発しますので,小学校高学年まで治療を繰り返す可能性があることも親御さんに伝えておくことが重要です。
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最後に,ACH患者さんの心の問題に乳幼児期から取り組むべく,将来の自立を促進・阻害する因子について西村先生にご解説をお願いします。
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2014年から2016年にかけて,学童期ACHと養育者9組,成人ACH患者12例を対象に実施した聞き取り調査の結果をご紹介します。
妊娠期・出生直後は胎児エコー検査で四肢短縮を指摘されても診断されず,出生後の確定診断まで苦しい日々を送ることが明らかになりました。1人で告げられた際の動揺,医療者への不信感など,出生後に確定診断を受け,専門医に会えるまで気持ちの揺れや葛藤,現実として受け入れがたい気持ちなどがあります。診断後はショックを受けたものの具体的な対応を知って前に進むことができたとの声が多く,この時期に出会う医師・看護師からの心理的支援,医療ソーシャルワーカーや遺伝カウンセラー,患者会などの紹介が信頼関係において重要になると考えられます。
ACHでは自立歩行の獲得が1~3歳と幅広いため,保育園への入園拒否や入園時期の遅れ,延長保育の拒否などの問題があります。さらにリハビリなどの支援が乏しく,引越しで市町村が変わると継続したサービスが受けられなくなるほか,自立歩行が可能になるまで抱っこで移動する必要があるなど,乳幼児期は発達の遅れをほかの子どもと比較して不安が強くなる傾向がみられました。医療者は乳幼児期のACHにおける成長発達の個別性を踏まえ,養育者と入園に際して具体的な支援を話し合い,場合によっては保育園に出向いてカンファレンスに参加することも必要かと思います。就学前に保育士,幼稚園教諭,保健師,助産師などの専門職がデイサービスや子育て支援センターなどを紹介することも重要です。この時期に社会生活をスムーズに開始することが自立への第一歩であり,医療者による支援が求められるでしょう。
学童期ACHからの聞き取りでは「学校でできないことはない。それよりもばかにされる痛み」,成人ACHからの聞き取りでは「何でもできると言われて障害者手帳はとれない。でも街中では誹謗中傷を受ける。自分たちは中途半端な障害者だ」との声が聞かれました。ACHそのものよりも,社会からのこれらの対応にどう対処しながら自立を支援するかが課題と思われます。
将来の自立を促進する要素として,1人暮らしのタイミング,車の免許取得,障害者手帳の取得のための情報入手などが挙げられました。一方,阻害要因としては就職した際の勤務内容や物理的環境よりも食堂で周囲の手助けが必要になること,障害者雇用で入社した場合の昇進などの懸念が聞かれました。一方的にサポートされるばかりでなく周囲に還元できる人間関係,加齢によって起こる脊柱管狭窄症などを治療しながら勤務を継続できる環境が必要になるというお話でした。ACHに理解あるかかりつけ医をもつこと,生活のあらゆる場面で人に助けを求めるスキルを身につけることの重要性を当事者は実感されています。
将来の自立に向けて,乳幼児期では①小学校入学までに自分のことを他人に伝えられる,②自分ができる範囲を把握し,何を助けてほしいか認識できる,③1人暮らしや仕事を続ける体力をつける,の3点が重要と考えられました。特に③においては,体育の授業や遠足で必要以上の制限をしないよう医療者が情報提供することも重要です。同級生と同内容に挑戦したうえで,できること・できないことを理解する経験が社会に出た際の人間関係の構築,身体状況を踏まえた社会適応につながるという意見がありました。
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ありがとうございました。小児を診療されている先生方からご質問はありますか。
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出産後すぐにACHを告知するか,1ヵ月健診頃まで待って伝えたほうがよいのか迷うケースがありますが,できるだけ早く伝えたほうがよいとお考えですか。
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養育者は苦しい時間が長引くよりも具体的な治療法,心理的・医学的支援を知ることで前に進めたと回答されていますので,支援体制があればできるだけ早く伝えたほうがよいと思います。
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われわれが取り組んでいる自立支援・移行支援も,当事者が自身の疾患を他人に伝えられるようになり,学校や社会で生きる力につなげるための取り組みです。西村先生は何歳からそうした自立への取り組みを始めるとよいと思われますか。
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ACH当事者にほかの子どもとの違いを感じ始めた時期を質問すると,多くの方が保育園・幼稚園と回答されます。このため,小学校入学前に親御さんが「ほかの子よりゆっくり大きくなる」と本人に説明すると,同級生にからかわれても対処しやすいとお聞きしました。
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移行支援で難しいのは,GH補充投与が終了し,下肢延長術を行わず,合併症がないACH症例をどの成人科に紹介するかです。患者さんも進学や就労で定期的な受診が難しくなりますので,医療ケアから離脱してしまうことがあります。
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聞き取り調査でも,加齢に伴って出現する脊柱管狭窄症の症状を知らなかったという当事者がほとんどでした。そのなかで,小児科医に「大きくなったらしびれなどが出るから,自己管理できるようになりましょう」と言われたことを成人後に症状が出て思い出し,「あのとき小児科の先生が言っていたな」と気づいて医療機関を受診できた方がおられました。将来起こりうる症状と対応を学童期前から本人に繰り返し伝えることで,将来的な自己管理にもつながるのではと思います。
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ご両親や本人の努力や工夫はもちろん重要ですが,一方で乳幼児期に医療者が保育園・幼稚園,小学校などにACHに関する情報を伝え,ACHを含む多様な疾患をもつ人々が暮らしやすいインクルーシブな社会の実現を目指すことも重要ですね。
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ご指摘のとおり,ACHの子どもたちの自立を支援すると同時に,社会環境を変えていくこともわれわれの役割です。学校環境に働きかけるため,今後ACHの研究データをまとめた冊子を全国の教育委員会に配布する予定です。学校に限らず,医療現場でもACHへの理解度は十分とはいえません。耳鼻咽喉科や整形外科などの一般診療の医師がACHを理解し,専門施設に紹介できる体制の整備が必要かと思います。
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ボソリチドが登場したことで一般小児科医におけるACHの理解度の向上が期待されますが,今後は整形外科をはじめとする成人科でも疾患周知が必要ですね。
本座談会を通じて,診療科の枠を超えた医療上の多科・多職種連携はもちろん,社会化のスタートである乳幼児期から地域の保育園・幼稚園,小学校との連携・啓発に取り組む重要性を再認識しました。今後,医療体制および社会環境を整備することでよりよい移行期支援,成人期医療につながればと願っております。
本日はありがとうございました。
References
- Vu GH, et al. Plast Reconstr Surg. 2021;148:973e-982e
- Cheung MS, et al. Arch Dis Child. 2021;106:180-4.
- 山口宗太,他.口腔咽頭科.2021;34:53-60.