軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptors:FGFR)3の恒常活性型変異により軟骨内骨化が障害され,四肢短縮型の低身長を呈する代表的な骨系統疾患である1,2)。軟骨内骨化は長管骨のみならず,頭蓋底,脊椎,骨盤の成長にも関与しているため,これらの成長障害によって特徴的な顔貌や骨形態となる。表現型はとても均一な疾患で,顔貌やプロポーションは人種を問わず似かよっている。
乳幼児期から幼少期にかけては呼吸や発達を小児科で,大後頭孔狭窄は脳神経外科,中耳炎は耳鼻科で治療することが多い。一方で整形外科は出生後の診断に始まり,乳幼時期の運動発達遅滞,脊柱後弯,下肢アラインメント異常,腰部脊柱管狭窄,変形性関節症と一生涯にわたって治療に関わる(図1)。成人以降の日常生活動作(activities of daily living:ADL),生活の質(quality of life:QOL)は運動器の機能維持にかかっているといっても過言ではない。

軟骨無形成症(ACH)では年齢ごとに合併症の頻度が異なるが、生涯にわたって医療ケアが必要となる。
軟骨内骨化は長管骨の両端にある骨端線を介して長軸方向の成長を主に司る。骨端線では軟骨細胞がきれいなカラム構造を形成し,増殖層→肥大層→骨へと分化する。FGFR3シグナルは軟骨の増殖や肥大分化を抑制する作用があり,ACHではこれが過剰に発現するため成長障害を来す。一方で,骨の横軸方向の成長は膜性骨化という異なる機序で制御されているため,こちらは抑制されない。したがって,ACHでは短い太い骨となり,骨端部も太いためダンベル状の形態をなす。腸骨も同様に長軸方向への成長は軟骨内骨化,横方向への成長は膜性骨化であるので,縦方向の成長が障害されると腸骨が正方形(方形化)に近い形,いわゆるelephantʼs ear appearanceとなる。また骨盤輪も狭くなり,骨盤の単純X線ではchampagne glassのような特徴的な形状を示す(図2-A)。椎体では椎弓根の軟骨結合(synchondrosis)で軟骨内骨化によって脊柱管が拡がるため,ACHでは脊柱管狭窄となる(図2-B,C)。骨端線の閉鎖時期は骨や部位によって異なるが,椎弓根の軟骨結合は長管骨より早期に閉鎖することが知られている。

A:骨盤単純X線:方形化した腸骨(Elephantʼs ear)と骨盤輪の狭小化(Champagne glass appearance)。
B:腰椎単純X線:椎弓根間距離が下位腰椎ほど狭い。
C:腰椎CTとMRI:第5腰椎の脊柱管狭窄が目立つ。
(岡田慶太先生ご提供)
ACHでは運動発達が全般的に遅れることが知られている3)。筋緊張の低下,関節弛緩性のほかに,新生児期には大後頭孔狭窄の影響による脊髄圧迫症状も注意しなければならない。無呼吸や突然死のほとんどは大後頭孔狭窄に起因すると考えられており,新生児期に水頭症も含めて大後頭孔をMRIで評価すべきである。また体幹に比して頭部が大きいことと体幹筋の弱さが相まって,脊柱後弯が目立つことが多い。年齢とともに体幹筋が発達し,改善するが,椎体の楔状変形が生じると後弯が残存してしまう。そのため,体幹がしっかりするまで座位を取らせないように指導することが重要である。
歩行開始後に注意すべきことは下肢のアラインメントである。膝の関節弛緩性が強いために,通常であれば屈曲伸展方向にしか動かないはずの関節が内外反方向にも動いてしまう。つまり,立位でO脚(内反膝)やX脚(外反膝)が目立つようになる。また足関節での内外反も出現すると成長とともに変形が加速する。対症療法として足底板にウェッジを付けて対応するが,矯正効果は不十分であることが多い。したがって,重症な例では骨切りや骨延長時に矯正を行うことも考慮する。現在は骨端線の成長を部分的に抑制することで変形を緩徐に矯正するguided growthが積極的に行われている(図3)。通常はgrowth spurtの時期に行うことで良好な矯正が得られるが,ACHはgrowth spurtがないため,より早期に治療しなければ矯正効果が得られにくい。また,成長に依存する治療法であるがゆえに,予定よりも矯正が得られないことも経験する。治療のタイミングが重要なので早めに小児整形外科医に相談すべきである。

A:脛骨近位骨端線外側にプレートを設置することで部分的に成長を抑制。
B:スクリュー使用例。
(岡田慶太先生ご提供)
ACHでは身長140cm以上に達するとQOL,ADLが改善することが報告されている4)。これまでの低身長に対するアプローチは,薬物療法では成長ホルモン,外科治療では骨延長が中心であった。骨延長は骨折が修復する機序を応用し,創外固定器を設置して骨切りを行い,1mm/日で骨を延長する方法である(図4)。ACHは骨が比較的できやすく,軟部組織も柔らかい。したがって,下腿や大腿でそれぞれ5~10cm程度延長することが可能であり,合計15cm以上延長する人も多数いる。また,上肢の短縮により臀部に手が届かない場合は上腕骨を延長することがある。下肢と比較して合併症が多いために症例数は少ないが,満足度は下肢延長より高い。
骨延長は長期間に及ぶ治療,創外固定器による弊害や合併症が問題となり精神的にも身体的にも苦痛を伴う治療である。就学中に行うことが多く,学業への影響も否めない。そのうえ,1人で日常生活を送ることが難しいので,家族総出でのケアが必要となり,決して安易に行うべき治療ではない。一昔前までは骨延長を希望されることが多かったが,現在はバリアフリーが進んできたこともあってか,手術症例は減少している印象がある。
また新たな治療法であるボソリチドの登場により,早期から成長促進することで骨延長を回避,または併用することでより身長を伸ばせることが期待されている。ボソリチドはC型ナトリウム利尿ペプチドで,FGFR3のMAPKシグナルの下流分子であるRAF-1を抑制する作用がある。短期成績ではプラセボに対し年間およそ1.5cmの身長増加が期待されているが,長期成績については今後注目していかなければならない5)。

(岡田慶太先生ご提供)
先述のとおり,脊柱管狭窄は画像上全例にみられるが,症状が出現するのは10代後半以降である。歩行時に下肢の仏痛やしびれが出現し,休むと症状は改善する,いわゆる間欠性跛行である。胸腰椎移行部での後弯,腰椎の過前弯,椎間板ヘルニア,黄色靭帯骨化症,変形性腰椎症,椎間関節の変性などもともとの狭窄に加え,ほかの病態が合併すると急激に症状が悪化することもある。腰椎に注目しがちだが,頸椎,胸椎レベルが原因となることもあり,下肢伳反射の亢進がみられるときは必ず全脊髄を確認すべきである。治療はプロスタグランジン製剤など保存的治療から開始するが,膀胱直腸障害や神経麻痺による筋力低下が出現した場合は外科的治療を行う。体格が小さいうえに腰椎過前弯の影響で除圧が難しく,硬膜損傷などの合併症も多い。したがって手術が必要な場合は病態に精通した脊椎外科医に相談することが望ましい。
また,関節形態や軟骨の問題で変性が生じやすい。小児期に関節の痛みを訴えることは少ないが,早いと30代後半から関節痛が出現する。消炎鎮痛薬などで対症療法を行うが,変形性関節症が進行すると人工関節全置換術の適応となる。しかし,骨の大きさやアラインメントの問題で,インプラント選択に難渋することが多く国内では手術に至る症例が少ないのが現状である。
これまで述べてきたように,ACHは生涯にわたって医療ケアが必要な疾患である。しかしながら,実際には成人期以降,定期的に通院している方はほんの一部に過ぎない。その大きな要因にキャリーオーバーの問題がある。小児期は両親に連れられ,小児病院などに定期受診するが,大学生,社会人になると時間的制約が厳しくなり,そのうえ受け入れ施設が見つからず受診を中止することが多い。そして次に受診するときには手術が必要なまでに悪化した状態になっていることはまれではない。小児期は小児科が司令塔の役割を担い,各科への振り分けを行うが,成人になると生活習慣病以外は主に整形外科的問題となる。そのため,骨系統疾患診療に携わる整形外科医が増え,的確なマネージメントをすることが必要である。
治療においては,ボソリチドへの期待は大きく,身長はもちろんのこと,脊柱管狭窄や下肢アラインメントの改善が可能となれば成人期以降の問題は大きく改善されることになる。まだまだエビデンスが不十分なため,0歳から使用可能な日本において長期的な治療効果をみていかなければならない。
References
- 日本整形外科学会 小児整形外科委員会 骨系統疾患マニュアル改訂ワーキンググループ(編).
骨系統疾患マニュアル改訂第3版.東京:南江堂;2022.pp.30-3. - Horton WA, et al. Lancet. 2007;370:162-72.
- Ireland PJ, et al. Orphanet J Rare Dis. 2021;16:40.
- Matsushita M, et al. Calcif Tissue Int. 2019;104:364-72.
- Savarirayan R, et al. Lancet. 2020;396:684-92.