Knowledge Sharing No.2 2025年2月発行 紹介した症例は臨床症状の一部を紹介したもので,
全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

軟骨無形成症における遺伝カウンセリング ―乳幼児期を中心に― 伊藤志帆先生

軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptors:FGFR)3遺伝子の機能異常により四肢短縮性低身長を呈する骨系統疾患である。出生頻度は約1万~3万人に1人とされ1),先天性の骨系統疾患のなかでは代表的疾患であり,近年治療法も臨床応用されている。認定遺伝カウンセラーは,ACHを有する子どもの診断告知,その後成長発達に伴い生じるさまざまな遺伝的課題に直面する家族に寄り添い,ともに歩む。本稿では,乳幼児期でのかかわりを中心に,継続的な視座に立った支援のあり方について述べる。

ACHを有する子どもでは,特有の症状に対する定期的な健康管理を要する2)。筆者の所属する東京都立小児総合医療センターでは,ACHの診断や成長発達に応じた全身管理を複数の専門診療科,多職種によるチーム医療にて多角的に支援を行っている。妊娠期から出生時にかけて,症状から診断を検討する際には周産期部門(産婦人科,新生児科)が総合的な管理を行う。診断,治療など,その後の健康管理は専門診療科(内分泌代謝科,整形外科,脳神経外科,臨床遺伝科)にて多彩な合併症の早期発見や治療を担う。臨床遺伝科は院内における遺伝診療部門として,先天異常症候群をはじめとする小児期発症の遺伝性疾患の診断,遺伝学的検査,遺伝カウンセリング,診断後も成長発達のフォローアップ,発達段階において起こりうるさまざまな課題において切れ目のない支援を行っている。

認定遺伝カウンセラーは,臨床遺伝専門医と協働して質の高い遺伝医療を提供する。遺伝カウンセリングを担う遺伝専門職であり,遺伝的課題に直面するクライエントに対して適切な情報の提供や,心理社会的支援を行う。遺伝性疾患の診断時には,患者家族が遺伝的課題に向き合うプロセスを支援する。遺伝性疾患の多くは,診断以後もその希少性から医療者をはじめとする援助者側の経験不足により十分な医学情報が得られない場合も多い。起こりうる合併症ごとの診療科への頻回な通院や管理の困難さ,適切な社会資源や支援制度につながれない,などの特徴がある。また患者のみならず,その他家系員の遺伝的影響が示唆される場合もあり,親やきょうだいが当事者となりうる。多くの遺伝性疾患では依然として根本的な治療法がなく,状況の抜本的な解決が困難であり,倫理的課題に直面する場合もある。認定遺伝カウンセラーは,このような遺伝性疾患の特徴をふまえ,さまざまな状況をもつ人々の多様性を理解し,患者家族が最善な生活が送れるよう支援する3)

1|情報提供時における留意点

遺伝カウンセリングでは,疾患の自然歴や症状,遺伝学的情報などの医学的情報のほか,家族会を含む社会資源など,最新かつ正確な情報を提供する。相談内容や不安の程度は,同じ遺伝性疾患であっても患者家族のライフステージや個々の置かれた状況により多岐にわたる。医療者側の一方的な説明ではなく,クライエント本人が何を知りたいのか,心配に思うことについて来談主訴を丁寧に聴取し,心理的背景をアセスメントしたうえで説明事項を検討する。専門用語は避け,理解度に配慮した工夫を心がける。クライエントの理解度を確認し,情緒面に傾聴しつつ対話的なかかわりをもつことは,クライント本人の自律的な意思決定支援につながる。

2|医学的情報の説明

診断を受けた患者家族の多くは診断時にはじめて「軟骨無形成症」という疾患名を見聞きする。遺伝カウンセリングでは,骨系統疾患の概念,現所見と臨床診断に至った経緯,起こりうる合併症に関して,その発症頻度や発達段階ごとに重視すべき課題も含めて順序立てて説明する。定期受診の頻度,症状出現時の対応方法について,具体的に示しうる点は明確に伝え,必要に応じてその他専門診療科につなげる。発達面では,その身体的特徴から運動発達の遅れが生じうる。同疾患と診断された場合にも症状や発達は一様ではないこと,自然歴を説明するなかで知的予後には影響ないことなど,定型発達が期待できる側面についても合わせて伝える。治療法については,将来的な治療の展望も含めて最新の情報をもとにメリットとデメリットを説明し,家族が納得し治療を選択できるよう橋渡しする。骨系統疾患は現在知られているもののなかでも数百と疾患数は多岐にわたる。ACHの自然歴に関する知見は比較的多いが,類似した名前の疾患も存在するため,その複雑さが親の理解の妨げとなっていることを経験する。それぞれの疾患において健康面での注意点や生命予後は異なるため,親の認識や不安に思う内容を確認し,言葉を添えて説明するよう心がける。親が疾患に対する知見を深めることは,将来への不安は解消されないものの心配すべきことを具体化し,子育ての方向性を定め,展望をもった養育行動をはかることへとつながる。

3|遺伝学的情報の説明

ACHは,遺伝情報の変化が発症に関与する遺伝性疾患であり,遺伝カウンセリングの場面では遺伝子の働きやその他家族への影響の有無などを体系的に説明する技術を要する。ACHでは原因遺伝子として知られるFGFR3遺伝子の機能異常が発症に関与し,機能亢進型バリアント(多くはp.Gly380Arg)をその発症機序とする。遺伝カウンセリングでは,染色体,遺伝子,DNAなどの分子遺伝学の基本的な概要に関する説明も事前知識に沿って説明する。近年,FGFR3遺伝子の遺伝学的検査は保険適用(遺伝学的検査算定料5000点:2024年8月現在)となったが,臨床所見より診断が確定できることが大半であり,診断精度や遺伝学的検査の位置付けについて家族とも共有する。

家族が遺伝的リスクについて共通認識をもつことは,疾患への受容やライフイベントの際に生じうる遺伝学的課題において主体的な意思決定を可能とする。ACHでは,①常染色体顕性遺伝形式を呈し,性差はなく浸透率100%であることから,親が低身長などの疾患特有の症状がない場合の多くは新生バリアントと解釈される。②次子再発率は,親が症状をもたない場合には一般頻度と同じだが,例外として性腺モザイクの可能性も考慮される。③罹患している本人から次世代へは50%の確率で遺伝する,などが説明事項となる。このような遺伝パターンについて説明する際には,イラストを用いて視覚化しながら説明することにより,理解が深められるよう工夫する(図)。家系図を聴取するなかで,その他先天性疾患や流産歴などの家族歴がある場合には,今回の出来事との関連性について説明を加える。また健常なきょうだいがおり同じ症状をもたない場合には,次世代への影響も含め遺伝的影響がないことも言語化して伝える。将来的な遺伝的リスクについては,子ども本人にも時期をみて共有することも話し合いのなかで想像してもらうよう心がける。遺伝性疾患における共通事項として,発症メカニズムや遺伝形式はさまざまであり必ずしも親からの遺伝を意味することではないことを共有し,多様性の観点からACHにおける遺伝学的情報を理解できるよう留意する。

常染色体顕性遺伝形式に関する説明資料
常染色体顕性遺伝形式に関する説明資料

4|生活上の課題,社会資源に関する情報

診断時に親が抱く不安の内容は,発達面,学校,職業,結婚などその子の生涯にわたる。本人の発達を下支えする療育や,小児慢性特定疾病や指定難病などの医療資源については,活用事例も含めて情報を提供する。同じ境遇をもつ患者家族との交流の場として,患者家族会に関する情報や,院内における患者家族同士でのピアサポートの開催なども要望に応じて臨機応変に対応している。ACHを有する子どもでは,通院による時間的な制約,体力的な制限など,学業面への影響が生じうる4)。学校環境では,低身長の体型を補う椅子やトイレ時の補助具(踏み台や足置台など)や,場合によっては施設改修の対応などの合理的配慮を要する。学校生活を円滑に送れるよう,学校,家庭,医療機関が連携し,一人ひとりの状況に合わせて適切な支援が検討されること,生活を支えるステークホルダーの存在を共有することで,見通しをもった子育てや,孤立感の軽減につながると考える。

5|診断時における心理的支援

診断時には,親の抱くショック,自責の念,否定的な思いなどさまざまな感情に共感的に理解し,傾聴を行う。わが子がACHをもって生まれてきたことへの「なぜ」には,科学的根拠を求める「なぜ」のほか,親の抱える葛藤や不安の現れである場合の2つの意味合いがあり,後者では心理的支援を要する5)。ACHを有する児の診断経過では,出生前より超音波異常所見の指摘を受けている場合や,出生後まもなくして診断されることが多いため,周産期における特有のメンタルヘルスにも配慮する。「健康なわが子」の喪失を体験した親は,家族として児と共に過ごす時間的経過のなかで,その意味づけを行っていく。本人自身の生命力を感じ,児の成長を親が実感することが大きな原動力となっていくことを経験する。継続したかかわりのなかで,親の「いま」の思いに寄り添い,必要な時期に遺伝カウンセリングが提供できるように関係性を構築していくことが望まれる。

6|心理社会的課題をふまえた継続的支援

診断を契機に適切な健康管理や治療,社会的支援につながることができる一方で,家族が中長期的に向き合うこととなる課題も多い。とくにACHでは,低身長をはじめとする容姿の可視的な差異が社会生活上の課題となる。外見上の特徴は,対人関係において心理的苦痛や社会不安,自尊心の低下などの心理社会的課題を伴うことが知られる6)。学童期では,対人関係をきっかけに自分自身の特異性について気付き,本人から親に質問がなされることがある。思春期では,ボディイメージの変化とともに容姿に対する意識が高まり,周囲の理解不足や他者の評価により自己肯定感が低下する傾向がみられる。本人に遺伝的リスクを含む疾患情報をどのように共有していくか,来たる将来について親が心的負担を吐露することも多い。本人の発達段階,精神的成熟度に応じた疾患への理解は,青年期以降に社会生活のなかで生じた困難感にも対処する能力の備えへとつながる。母子および家族との関係は本人の環境基盤であり,安定的な愛着形成により子の情緒や社会性が育まれる。本人が生まれもつ疾患について家族内でオープンに話し合える関係性ができ,共に学ぶ姿勢が持てるよう,継続的に支援することが肝要である。

軟骨無形成症を有する子どもとその家族への遺伝カウンセリングでは,単発的な情報提供のかかわりのみならず,家族が抱えるさまざまな特有の困難感にも目を向け,心理社会的な側面から包括的に支援することが重要である。認定遺伝カウンセラーは,家族に寄り添う遺伝専門職として,子どもが健やかに成長していけるよう長期的な視座に立った心理社会的支援を担う。

References

  1. Waller DK, et al. Am J Med Genet A. 2008;146A:2385-9.
  2. 日本小児内分泌学会.軟骨無形成症診療ガイドライン.2019年1月11日.
    http://jspe.umin.jp/medical/files/guide2_20190111.pdf(閲覧:2024-08-15)
  3. 認定遺伝カウンセラー制度委員会.認定遺伝カウンセラー到達目標.2022年4月23日.
    https://plaza.umin.ac.jp/~GC/Data/2022_attainment_target.pdf(閲覧:2024-08-15)
  4. Pfeiffer K, et al. Am J Med Genet A. 2022;188:454-62.
  5. 臨床遺伝専門医制度委員会(監).川目 裕.臨床遺伝専門医テキスト③
    各論Ⅱ 臨床遺伝学小児領域.東京:診断と治療社;2021.pp.15-21.
  6. 松本 学.心理研.2008;79:66-76.
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