Knowledge Sharing No.2 2025年2月発行 紹介した症例は臨床症状の一部を紹介したもので,
全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

連続性のある医療で小児期の軟骨無形成症を診る 菅野潤子先生

東北大学病院小児科では,小児の全身を診るなかで成長障害・低身長の原因の1つである内分泌疾患も診療しています。軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は四肢短縮型低身長症を呈する骨系統疾患ですが,周産期には,重篤な呼吸器症状は典型例において一般的には認められないことから,成育限界児・超低出生体重児の管理,人工呼吸管理・外科的手術などを行う周産母子センターではなく,通常の出産として産婦人科で対応していただいています。

ACHの発生頻度は2万出生に1人とまれであるため,年間出生数が2万人を大きく下回って推移している宮城県では年間1例経験するかどうかという疾患です。東北6県を合わせてもACHの出産は年間数例であるため,東北の他県から宮城県立こども病院にコンサルトされ,産婦人科で出産となるACHのお子さんもおられます。その場合,主に1ヵ月健診時にこども病院から東北大学病院にコンサルトいただきます。東北大学病院の産婦人科で出産されるケースでは,1ヵ月健診時に新生児科から小児科へコンサルトされることが多いです。

ご家族への診断および治療の説明や遺伝子検査に関しては,出産後の1ヵ月健診時やそれ以前の外来受診時に小児科でACHの概要とボソリチドによる治療について説明し,その際に遺伝子検査についても説明します。私は臨床遺伝専門医・指導医の資格を有しており,遺伝子検査やその結果の説明についても小児科内で若い先生方と一緒に行い,その後,頭部MRI検査,治療導入へと進めています。

これまではACHの小児に対して3歳まで薬物療法の適応がなかったため,小児科では大後頭孔狭窄の確認を目的とした頭部MRI検査の外来予約や入院を目的に生後数ヵ月間隔で診療を行うケースがほとんどでした。しかし2022年にボソリチドが承認されてからは,治療導入入院や自己注射開始後のフォローアップなどを目的に,より密に診療を行うようになっています。その後も例外はありますが,東北大学病院の小児科で18~20歳まで他科と連携して診療を継続した後,東北大学病院の整形外科へ移行という流れになることが多いです。

1|大後頭孔狭窄をはじめとする合併症の対応

小児期にみられるACHの合併症のうち,大後頭孔狭窄は脊髄圧迫や突然死につながる重要な所見です。新生児期から定期的な頭部MRI検査を行い,内科的なアプローチが必要と判断された症例は宮城県立こども病院の脳神経外科にコンサルトします。反復性中耳炎や難聴も小児期に認められる合併症であり,必要であればこども病院の耳鼻咽喉科へコンサルトし,手術の必要性などについて判断いただきます。小児期から内反膝がみられる場合はこども病院の整形外科へコンサルトすることもありますが,リハビリテーションなどの実施はご家族の希望やその子の運動能力によっても異なること,東北6県から通院される患者さんにとってはこども病院への通院時間などの負担が大きいことなどから,それぞれの患者さん・ご家族の状況に合わせて対応することが重要と考えています。

歯列不整などが認められる場合は東北大学病院内の歯科にコンサルトし,並診しながらフォローアップすることになりますが,ほとんどの合併症はこども病院にコンサルトして介入および管理を行っています。

2|こども病院における骨延長術での多職種のかかわり

宮城県立こども病院は当院からの応援で週2回,外来診療を受け持っていることもあり,歯科以外のACHの合併症についてはこども病院で主に診療しています。また,東北6県のACHの小児は小学校の高学年~中学生になると骨延長術を受けるためにこども病院の整形外科に年単位で入院します。入院期間中は隣接する肢・病併置校の宮城県立拓桃支援学校の院内学級に通学し,内科的治療や合併症管理については私たちがこども病院で診察するほか,入院中の自己注射などは親御さんに代わって看護師が行います。また,薬剤師による服薬指導や理学療法士によるリハビリテーション,骨延長術による痛みや長期入院のつらさなどの心理面に関しては,看護師のほかに臨床心理士がかかわることもあります。

こども病院での診療は骨延長術が終わる中学生頃までで,高校生になれば宮城県のACHの患者さんは東北大学病院に戻られます。一方,宮城県外の東北5県の患者さんたちは中学校の卒業式までに治療が終わるように逆算して手術を開始し,治療終了後に地域の病院に戻るケースが多いようです。

宮城県内の内分泌代謝科(小児科)専門医は20年前には2名しかいませんでしたが,現在11名まで増えました。ただ,こども病院には内分泌代謝科の常勤医がおらず,私が非常勤として外来診療を担当しています。このため,現状では小児期におけるACHの診療については東北大学病院小児科がハブとなり,合併症に対しては歯科を除いて子ども病院の各診療科で対応いただくという形をとっています。大学病院とこども病院が有機的かつ緊密につながることで,症状や生活背景の異なる個々の患者さんを柔軟にサポートしています。

私が今担当しているACHの患者さんたちの多くはまだ18歳を迎えていませんが,前任の先生が診療されていた患者さんの多くは18歳前後で東北大学病院の小児科から整形外科へと移行していました。これは,成人期以降は脊柱管狭窄をはじめとする整形外科関連合併症が増えてくるためです。成人期になる前から脊柱管狭窄や脊柱後弯,腰椎前弯などの合併症については整形外科へコンサルトし,小児科と同日に診療予約を入れて一定期間は両科で診療を進め,その後は整形外科が診療の主科となって対応します。

また,医療費などに関係する各種医療費助成制度の申請を小児科で行えなくなった場合は診療科の移行が考慮されます。例えば小児慢性特定疾病医療費助成制度では,「小児慢性特定疾病における軟骨無形成症の対象基準」のうち薬物療法,外科的治療,脊柱変形に対する治療,呼吸管理・酸素療法のいずれかに該当する必要がありますが,小児科でボソリチドや成長ホルモン治療が終了した場合は外科的治療や脊柱変形の治療を担う整形外科が主科となって申請書類を書き,申請するという流れです。

ACHの患者さんは成人後も通常の社会生活を送る方が多いため,成人科への移行が難しいわけではありません。ただ,前任の先生が成人後も小児科で診療されていたケースもあります。それぞれの患者さんが置かれた状況,ご家族や本人の希望,問題となる合併症やそのタイミング,地域の医療体制などに応じて,主科にかかわらず小児科および成人診療科が柔軟に対応することが重要と考えています。

小児期におけるACHの患者さんでみられる症状・合併症はある程度決まっていますが,患者さんごとに抱えている症状・合併症には幅があり,発現時期なども異なるため,個別の評価・介入が求められます。患者さんが置かれている環境や社会的背景,病院や地域によって診療科や専門医の有無も異なるため,ガイドラインやマニュアルで対応できるほど一律ではありません。ACHに限らず,小児の疾患はケースバイケースで対応されるものであり,異なる条件のなかで,各患者さんにとってベストな医療が目指されています。ある病院で実践されている診療が他の地域,他の病院でそのまま再現できるものでもありません。

東北大学病院でも小児科が対応できない症状は脳神経外科や整形外科,耳鼻咽喉科,歯科,リハビリテーション科などの診療科にお願いして対応してもらい,対応後に小児科で長期的にフォローアップを継続する,という連続性のある診療がこれまで連綿と行われてきました。小児期から成人期までACHの診療のハブとなって各症例を個別に評価し,各専門診療科にコンサルトするのは主に小児科の役割ですが,小児の疾患は各診療科,各専門職の助けがなければ成立しません。

だからこそ,それぞれの地域,それぞれの病院で活用できる地域の病院や院内外の診療科・専門医とのつながりを最大限に生かし,1人ひとりの患者さんに対して柔軟で全人的な診療を実践していただきたいと思います。

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