軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は四肢短縮型低身長を来す代表的な疾患であり,3型線維芽細胞増殖因子受容体(fibroblast growth factor receptor 3:FGFR3)異常ファミリーに分類される1,2)。特徴的な顔貌として前顎部の突出,鼻根部の陥凹,顔面正中部の低形成があるため構造的な鼻咽腔狭窄を認めるが,そこに生理的なアデノイド肥大,口蓋扁桃肥大が加わるとさらに鼻咽腔が狭窄し閉塞性睡眠時無呼吸が出現もしくは重症化する。そして乳幼児期には大後頭孔狭窄による延髄・上部頸髄圧迫のため中枢性呼吸障害,運動発達遅滞を生じることがあり,中枢性睡眠時無呼吸との鑑別も必要になってくる。
またACHでは乳突蜂巣の発育不良,頭蓋底の狭窄,錐体尖部の突出および内耳の中央方向への回転などが指摘されており3),これらの解剖学的異常から耳管短縮,耳管機能不全が生じ,滲出性中耳炎が遷延化,難治化しやすいことが考えられている。
このようにACHには耳鼻咽喉科領域にかかわる合併症があり,その管理と治療には十分な知識と経験が必要になってくる。そこで本稿ではACHに合併する睡眠時無呼吸,滲出性中耳炎を中心にその管理と治療について述べる。
小児の睡眠時無呼吸の有病率は1~4%とされ4),アデノイド,口蓋扁桃が生理的に肥大する3~8歳頃にいびき,睡眠時無呼吸が出現し,アデノイド切除術(アデ切)・口蓋扁桃摘出術(扁摘)を施行されることが多い。そのなかでACH患児は睡眠時無呼吸の有病率が高く,わが国でのアンケート調査5)では睡眠時無呼吸を示すものが就学前患児で45%,学童患児で20%と高い値を示している。いびき症状に限れば就学前患児で95%,学童患児で90%とさらに高値となる。
1|睡眠時無呼吸を来しやすい原因
ACH患児が睡眠時無呼吸を来しやすい理由として,生理的なアデノイド肥大・口蓋扁桃肥大に加えて①顔面正中部の低形成・頭蓋底急峻,②大後頭孔狭窄,③下気道疾患,④成長ホルモン(growth hormone:GH)治療が挙げられる。
①顔面正中部の低形成・頭蓋底急峻 顔面正中部の低形成に加えて生理的なアデノイド肥大が加わると鼻咽腔が狭窄し,低年齢時(3歳未満)から睡眠時無呼吸が重症化しやすい。
②大後頭孔狭窄 ACHの合併症として大後頭孔狭窄があり,主な症状として頸部の屈曲制限,後弓反張,四肢麻痺,深部伳反射の亢進,下肢のクローヌス,中枢性睡眠時無呼吸が挙げられる。症状が出現する頻度は高くない6)が,これらの症状が1つ以上あれば大後頭孔減圧術の適応となるため,注意深い経過観察に加えて神経呼吸症状があれば速やかにMRIを行うことが重要となる。そのなかで睡眠時無呼吸が大後頭孔狭窄に伴う中枢性か,鼻咽腔狭窄に伴う閉塞性かの判断が重要となる。
③下気道疾患 3歳未満のACH患児の5%未満に拘束性肺疾患を合併する7,8)。高度の胸郭低形成により肺活量は低下し,最重症例では肺実質の異常が認められる。
④GH治療 ACH患児に対して3歳前後からGH治療を行うことがあるが,GH補充によりアデノイド増殖の可能性が示唆されている9)。ただしアデノイドが生理的に肥大するのも同時期であるため,GH治療のみがアデノイド増殖の原因になっているとは一概にいえない。
2|睡眠時無呼吸に対する検査
睡眠時無呼吸の評価として睡眠検査が行われる。無症状時のスクリーニングとして睡眠検査を行うことは有用10,11)であり,定期的な評価により睡眠時無呼吸の出現,悪化を確認しておくことが望ましい。
水頭症,大後頭孔狭窄評価のため脳神経外科にてCT,MRI(図1)が行われる。大後頭孔狭窄を認め,神経症状も合併している場合には早期に大後頭孔減圧術が行われるが,神経症状を合併していない場合には睡眠検査による評価が重要となる。睡眠検査で重症の睡眠時無呼吸を認めたときに,それが大後頭孔狭窄に伴う中枢性睡眠時無呼吸なのか,アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大による閉塞性睡眠時無呼吸なのか,それとも下気道疾患が関与しているのか,などを判断するには脳神経外科,耳鼻咽喉科,小児科など各専門領域の評価が必要となってくる。
耳鼻咽喉科では上気道の閉塞部位を適切に評価することが重要であり,いびきや陥没呼吸の有無,頭部側面X線,内視鏡検査によって閉塞性睡眠時無呼吸の評価を行う。睡眠検査で重症の睡眠時無呼吸が疑われ,そしてアデノイド肥大,口蓋扁桃肥大が明確にあり,アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大が患児の睡眠時無呼吸の主要因と考えられた場合にはアデ切・扁摘を検討する。逆に睡眠検査で重症の睡眠時無呼吸が疑われるもののアデノイド肥大や口蓋扁桃肥大を認めない場合には,鼻咽腔狭窄の有無,終夜睡眠ポリグラフィー(polysomnography:PSG)による中枢性睡眠時無呼吸の鑑別,大後頭孔狭窄や下気道疾患の確認が必要となる。

大後頭孔狭窄(矢印)とアデノイド肥大(白円)を認め、鼻咽腔が狭窄している。
(山口宗太先生ご提供)
3|睡眠時無呼吸に対する治療
神経症状や中枢性睡眠時無呼吸があれば脳神経外科にて大後頭孔減圧術が行われる。
耳鼻咽喉科では,症状や検査から重症の閉塞性睡眠時無呼吸が疑われ,アデ切・扁摘により睡眠時無呼吸の改善が見込まれる場合には手術を検討する。ただし,もともとの鼻咽腔狭窄により睡眠時無呼吸が残存する可能性,また術前に閉塞性の睡眠時無呼吸と診断したとしても中枢性の睡眠時無呼吸がマスクされている場合には術後中枢性の睡眠時無呼吸が表出してくる可能性があることを念頭に置く必要がある。またACHのアデ切・扁摘は,もともとの鼻咽腔狭窄があるために術直後の上気道狭窄のリスクが通常より高くなる。そのため術前に手術のメリット・デメリットについて家族への十分な説明が必要であり,小児科・麻酔科・小児集中治療室(pediatric intensive care unit:PICU)との情報共有も重要となる。上気道狭窄のリスクを減らすためには短時間での手術と確実な止血が重要であり,また術直後に一過性に睡眠時無呼吸が増悪しても経鼻エアウェイや持続陽圧呼吸療法(continuous positive airway pressure:CPAP)などですぐに対応できるようPICUでの管理が望ましい。
症状や検査から重症の閉塞性睡眠時無呼吸が疑われても,アデノイド肥大,口蓋扁桃肥大が明確にない場合にはアデ切・扁摘の適応にはならない。しかしながらACHは構造的に鼻咽腔が閉塞機転になることが多く,経鼻エアウェイによる管理でも閉塞性睡眠時無呼吸が軽減することがあるため,そのような例では検討すべきものと考える。
このように睡眠時無呼吸を呈するACH児の治療はさまざまな要因が関与するため,フローチャートに検査・治療の流れ12)を記載する(図2)。

GH:成長ホルモン,CPAP:持続陽圧呼吸療法,PSG:終夜睡眠ポリグラフィー
(文献12より引用)
滲出性中耳炎は,鼓膜に穿孔がなく慢性的に中耳内に滲出液の貯留を認める中耳炎で,耳痛や発熱など急性の炎症症状は伴わない。小児滲出性中耳炎は就学前の小児の90%が一度は罹患する疾患である13)が,3ヵ月以上遷延する両側性の滲出性中耳炎に対しては外科的介入が検討される。ACHは滲出性中耳炎が遷延化,難治化しやすく,その原因としては顔面正中部の低形成・頭蓋底急峻により鼻咽腔が狭窄し耳管咽頭口が圧排・閉塞されること,乳突蜂巣の発育不良3),耳管短縮による耳管機能不全が生じていることなどが考えられる。
滲出性中耳炎はアレルギー性鼻炎や副鼻腔炎から続発することが多いため,まずは投薬による保存的治療が行われる。アデノイド肥大が滲出性中耳炎の悪化要因になることもあるため鼓膜チューブ留置術と併せてアデ切を行うこともあるが,ACHでは前述のようにアデ切後の上気道狭窄のリスクが高いため,睡眠時無呼吸の状況を考慮してアデ切を検討することが多い。
滲出性中耳炎に対して保存的治療を行っても改善を認めない場合には鼓膜チューブ留置術が行われる。アデ切・扁摘,脳神経外科手術,整形外科手術などの全身麻酔下手術に併せて行われることもあるが,周術期のリスクを考慮して局所麻酔下にて行うこともある。
一般的な小児滲出性中耳炎に対する鼓膜チューブ留置期間は鼓膜穿孔の残存も考慮すると1年半程度が妥当と考えられているが,ACHでは滲出性中耳炎が難治性であり,より長期の留置期間が必要なこともあるため耳鼻咽喉科による定期的な鼓膜チューブの確認,滲出性中耳炎のフォローが重要と考える。
ACHは構造的な鼻咽腔狭窄に加え,大後頭孔狭窄による中枢性呼吸障害,下気道疾患による換気障害,GH治療などにより,低年齢時から睡眠時無呼吸を発症し重症化もしやすい。また滲出性中耳炎も遷延化,難治化しやすく,定期的なフォローや鼓膜チューブ留置術などの外科的介入が必要になる例も多い。
このようにACHにおいて耳鼻咽喉科が果たす役割は多く,耳鼻咽喉科医の積極的な介入がACHの治療をより良くするために重要と考える。
References
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- 山口宗太,他.口腔咽頭科.2021;34:53-60.
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