ご監修

医療法人医誠会
医誠会国際総合病院
小児科 部長

北岡 太一 先生

先生の診療されている患者さんに、
ご覧のような軟骨無形成症
患者さんはいらっしゃいませんか?

軟骨無形成症(ACH)の治療は、2022年に承認・販売されたC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体であるボックスゾゴ®の登場により、革新的な進化を遂げています。
こちらの仮想症例について、ACH診療のポイントとボックスゾゴ®を検討する際の注意点を医療法人医誠会 医誠会国際総合病院 小児科 部長 北岡太一先生にご解説いただきました。

症例02カ月女児

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

SD:標準偏差

本症例のACH診療時に
注目すべきポイント

ACHは、患者さんによって重症度に幅があるため、低身長や合併症の程度に注目し経過をフォローします。
そのうえで、本症例で注目すべきポイントは以下2つと考えます。

ポイント①

ポイント②

上記2つのポイントから、詳しく見ていく

ポイント①
健常児の平均と比べた身長SDが
ACHの平均と比較した場合にどれくらい離れているか

北岡先生

ACH患者さんの出生時の身長は健常な子どもの平均身長と同程度かそれより少し小さい程度ということもあり、必ずしも出生時から身長SDが−3SDを下回るわけではありませ1)出生後から3歳くらいにかけて年間身長速度が徐々に低下し、健常な子どもとの身長差が開いていきます。

ポイント①
今回の症例の身長
【出生歴】45.0 cm(-1.65 SD)
【現症】49.9 cm(-3.09 SD)

北岡先生

今回の症例について見ると、出生時45.0 cm(-1.65 SD)、かつ生後2ヵ月で49.9 cm(-3.09 SD)ですが、ACHの成長曲線にプロットするとACH平均の-1SDラインに沿って推移しています。健常な子どもと比べると目に見えて身長が離れていることで親御さんはとても心配されると思います。この症例の低身長に対する治療を考えるにあたり大切なことは、現時点ではACHとして標準的な成長を示していることを親御さんに十分に理解していただいた上で、今後のお子さんの身長に対する治療についてどのようなアプローチをしていくかということです。

ポイント②
どのような合併症(脊柱の後弯、大後頭孔狭窄、睡眠時無呼吸)が
どの程度問題となっているか

北岡先生

ACHの合併症は、将来の生活に大きな影響を及ぼすことから、経過も含めて注目することがポイントです。乳児期には脊柱の後弯、大後頭孔狭窄、睡眠時無呼吸が主な合併症とな2)それぞれ異なる対応が求められます。
脊柱の後弯は程度の差こそあれほとんどのACH乳児に認められますが、歩行獲得とともに多くは自然軽快しま2)一方で粗大運動発達の遅れと相まって後弯がなかなか改善せずに強くなってくる乳児もいて、そういう場合は椎体の楔状変形が生じていたりもするので、画像評価を行い整形外科の先生への相談が必要です。
大後頭孔狭窄については頭部MRI検査での確認と共に粗大運動の発達の遅れや神経学的所見について評価します。最初のMRI検査で狭窄を認めた場合はそれが軽度であっても進行していないかを半年を目処に再評価し、必要に応じて脳神経外科の先生へのコンサルトも検討します。
睡眠時無呼吸については睡眠中・お昼寝中のいびきなどの呼吸の様子をご家族から伺い、無呼吸が疑わしければ検査を行います。軽度から中等度の睡眠時無呼吸の場合でもアデノイドや扁桃腺肥大の有無について耳鼻咽喉科の先生に相談します。中耳炎を繰り返すことも多いので定期フォローしてもらえる体制が望ましいです。

ポイント②
今回の症例の合併症
【現症】脊柱の後弯あり、軽度の大後頭孔狭窄あり、睡眠時無呼吸が認められる

北岡先生

今回の症例は脊柱の後弯、軽度の大後頭孔狭窄、睡眠時無呼吸が認められていますので、上記のようなフォローが必要であると考えます。ACHの合併症の重症度は患者さんによって幅があるため、個々の患者さんの状況に応じて、増悪の有無をしっかり評価することが大切です。

本症例における
ボックスゾゴ®活用のポイント

北岡先生

本症例は身長および合併症の点から早期の治療開始を検討したい患者さんと言えます。ボックスゾゴ®は投与開始年齢に制限がないことから、このような年齢の患者さんにも治療の選択肢となります。

ACHではFGFR3が恒常的に活性化しているため軟骨細胞の増殖・分化が過剰に抑制されています。ボックスゾゴ®はFGFR3の下流のシグナル伝達を抑制することで軟骨細胞の増殖・分化を回復させる点が特徴で3,4)この作用機序の点から、FGFR3異常によってみられるACHの成長障害や合併症に対して良い影響がもたらされることが期待されます。
従来、ACHの低身長に対する内科的治療は成長ホルモン(GH)治療しか選択肢がありませんでした。ただしGH治療は3歳以上でないと導入できませ5)一方、ボックスゾゴ®は年齢制限なく使用できます。さらに5歳未満の患者さんを対象としたボックスゾゴ®の臨床研究では大後頭孔の面積、顔面・副鼻腔の容積などの検討があ6)生後6ヵ月未満のコホートにおける結果は注目されています。
3歳未満での治療が可能で大後頭孔狭窄や睡眠時無呼吸に対して良い影響がもたらされることを期待して、生後2ヵ月である本症例に対してボックスゾゴ®の導入は治療の選択肢として検討できると思います。ボックスゾゴ®はまだ十分にエビデンスが整っていない部分もあるため、期待する治療効果と現実とのギャップが生じないようにエビデンスについて丁寧に説明することを心がけながら、ご家族と治療管理についての相談をしていくことが大切だと思います。

ボックスゾゴ®を提案する際の患者さんと
ご家族へのIC(インフォームド・コンセント)のポイント

患者さんとご家族を守る小児科医の立場として、
毎日の注射を要する治療であり注射に伴う負担が生じることも丁寧に説明して理解を促します。

北岡先生

ACHと診断されたお子さんのご家族は、ACHに関する説明を受けた直後は不安でいっぱいになります。「いちばん心配なところは何ですか?」とオープンな問いかけをして、ご家族に不安を言語化してもらうことも大切です。心配されている点を中心にACHという病気を伝えるようにすることはACHについての理解を深め不安を和らげていくひとつの有効な手立てだと思います。
出生前の説明で不安でいっぱいだったご家族も、実際に生まれてきた元気な赤ちゃんの姿を見ると安心されることも多いです。そこであらためて成長障害や合併症についてしっかりと説明します。ACHに対する治療を早期から開始する意味について理解していただくためにも身長のことだけではなく、大後頭孔狭窄、睡眠時無呼吸、繰り返す中耳炎などこれから起こる可能性のある合併症について順に説明する必要があります。ご家族にある程度見通しを持っていただくことが納得して早期から治療を進めていく上でも大切です。

ボックスゾゴ®を紹介する際は、安全性についても説明します。
たとえばボックスゾゴ®の副作用のひとつに低血圧があります。私の経験から1歳以上では低血圧でお困りの患者さんはあまり多くない印象ですが、低月齢では低血圧に関連した症状が問題になっているようです。低血圧は今回の症例のように年齢が低いと起こりやすい可能性があるため、処方医はその点に注意し個々に対応する必要があると思います。通院中の患者さんで「ボックスゾゴ®の導入初期はミルクを戻してしまうことが少し多かった気がします」というような低血圧関連と考えられる嘔吐のエピソードの話も聞きました。起こりうる副作用とその対応についてもご家族に理解いただくことが大切です。
一方、ボックスゾゴ®で最も多い副作用は注射部位反応です。あらかじめ注射部位を冷やしたり、痛みが和らぐクリームを処方し、注射前に塗布するなどの痛み対策が有効です。
ボックスゾゴ®は1日1回皮下注射する製剤です。本症例くらいの月齢であれば、注射のときに赤ちゃんを押さえて打つことも可能ですが、毎日注射をされる赤ちゃんは大変ですし、また、注射をすることにご家族も罪悪感が伴います。小児科医は、患者さんとご家族を守る立場にもあります。ご納得して治療していただくためにも、ボックスゾゴ®を毎日注射する必要性に加えて、赤ちゃんとご家族双方の負担を説明しながら導入の相談を進めることが重要です。

ACH診療をされる
先生方へのメッセージ

北岡先生

ACH患者さんは、周りの子たちから「どうしてそんなに背が低いの?」と言われたり、特徴的なプロポーションに対して視線を向けられるなどしてスティグマを抱えることがあります。ボックスゾゴ®はACHの原因であるFGFR3の恒常活性による軟骨細胞の分化・増殖の過剰な抑制を緩める作用があります。これによって、ACH患者さんの成長障害が緩和して、プロポーションに対しても良い影響が期待できるかもしれませんし、理論的には、FGFR3の恒常活性によって引き起こされている合併症の緩和も期待されます。ボックスゾゴ®は、ACH患者さんのポテンシャルを上げられる可能性があるということです。
一方で、ボックスゾゴ®には毎日注射しなければならないなど治療の負担もあります。そのため、処方医は患者さんやご家族の治療のストレスなどを軽減させる工夫も求められます。ACHでは、合併症、治療の負担、社会的負担などをトータルに診療することを柱として、治療戦略を考えることが大切です。その中で、ボックスゾゴ®を上手に活用していただけたらと思います。

今回は生後2ヵ月のACH患者さんの仮想症例を取り上げ、
ACHの診療のポイントとボックスゾゴ®を検討する際の注意点について
北岡先生にご解説いただきました。

次回は「治療中のACH患者さんにおける切り替え症例」です。

111-206試験の試験概要および患者背景はご覧のとおりです。

引用文献

1)立花克彦ほか. 全国調査に基づいた軟骨無形成症患児の身長の検討. 小児科診療 1997; 60(8): 1363-1369.

2)Unger S et al. Curr Osteoporos Rep. 2017; 15(2): 53-60.

3)BioMarin Pharmaceutical Japan.ボックスゾゴ®皮下注用0.4mg/ボックスゾゴ®皮下注用0.56mg/ボックスゾゴ®皮下注用1.2mg医薬品インタビューフォーム. 2025年4月改訂(第5版)(2025年5月閲覧)

4)Lorget F et al. Am J Hum Genet. 2012; 91(6): 1108-1114.
[COI:本試験はBioMarin Pharmaceutical社の支援により実施された。また、著者にBioMarin Pharmaceutical社の社員が複数含まれる]

5)軟骨無形成症診療ガイドライン作成委員会、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「診療ガイドライン策定を目指した骨系統疾患の診療ネットワークの構築」研究班(研究代表者 大薗恵一). 軟骨無形成症診療ガイドライン

6)【承認時評価資料】国際共同第相試験:111-206/208試験(承認年月日:2022年6月20日、CTD 2.7.6.7)