ご監修

医療法人医誠会
医誠会国際総合病院
小児科 部長

北岡 太一 先生

先生の診療されている患者さんに、
ご覧のような軟骨無形成症
患者さんはいらっしゃいませんか?

軟骨無形成症(ACH)の治療は、2022年に承認・販売されたC型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)類縁体であるボックスゾゴ®の登場により、革新的な進化を遂げています。
本コンテンツでは、9歳のACH患者さんの仮想症例を取り上げて、ACHの診療のポイントとボックスゾゴ®を検討する際の注意点を医療法人医誠会 医誠会国際総合病院 小児科 部長 北岡 太一 先生にご解説いただきました。

症例9男児

*:ACHの平均身1)より算出

紹介した症例は臨床症例の一部を紹介したもので、全ての症例が同様な結果を示すわけではありません。

ポイント①
年間成長速度は
どれくらいか

北岡先生

ACH治療では3歳以上からGHが内科的治療として使用さ2)無治療と比べて2.8~3.5cmの増加が認められていま3)一方で、5年の経過で身長に対する効果が乏しくなること、思春期においては効果が得られないことも知られています。

ポイント①
今回の症例
年間成長速度:3.8 cm/年

北岡先生

今回の症例は、GHを使用している9歳の患者さんで身長が108.1cmです。この身長をACHの成長曲線に当てはめると、+1.1 SDであり、ACHとしての平均身長よりは高いことがわかります。しかし年間成長速度は3.8cm/年であり、この年齢のACHとしては平均的な年間成長速度です。つまりGH開始当初よりも年間成長速度は低下してきており、さらなるキャッチアップは期待できない可能性があります。このように、ACH患者さんの身長はACHの成長曲線で確認し、年間成長速度を評価することも大切です。

ポイント②
治療した合併症(アデノイド肥大など)が
再増悪していないか

北岡先生

顔面中央部の低形成があるためACH患者さんでは上気道が狭く、相対的にアデノイドや扁桃が気道を占拠しやすいです。そのため睡眠時無呼吸、繰り返す中耳炎はACH患者さんにはよくみられる症状の一つで4)閉塞性睡眠時無呼吸のためアデノイド切除術を受ける患者さんも少なくありません。ただしアデノイドは切除後に数年かけて再増殖することがあります。

ポイント②
今回の症例
過去に睡眠時無呼吸のため
アデノイド切除

北岡先生

今回の症例も既往にアデノイド切除とあるので、いつ手術を受けたのかを確認し、術後長期間経過しているようであればアデノイドの再増殖を念頭において、いびきなどがないか睡眠時無呼吸に対するフォローも必要です。

ポイント③
下肢痛が起こっていることから内反膝へ影響を及ぼす問題にも注目する
たとえば身長に対して体重が増えすぎていないか

北岡先生

ACHの患者さんは低身長のため体重が相対的に重くBMIは高値となります。したがって健常の方と同じようにBMIで肥満を評価することは必ずしも適切とは言えません。年齢を重ねるほど体重のコントロールが重要になるのは健常の方と同じですが、合併症のリスクがあるためACHの患者さんではより大切です。身長に対して体重が増えすぎると、内反膝や睡眠時無呼吸といった合併症に悪影響を及ぼします。ACHの患者さんの体重コントロールのためには、ACHの身長体重曲線での評価が有用です。

ポイント③
今回の症例
体重:29.3 kg(BMI 25.1)
身長:108.1 cm(+1.1 SD*

北岡先生

今回の症例はBMIは高めですが、ACHの成長曲線でみると体重はおよそ+1.5 SDで極端な体重増加ではありません。一方で内反膝によって下肢痛が認められていますので、身長に比し体重の増加が過ぎると内反膝の増悪とともに下肢痛が増していく可能性もあるため、今後の体重コントロールを意識していくとともに内反膝については整形外科との併診も考慮することが望ましい症例と考えます。

本症例における
ボックスゾゴ®活用のポイント

北岡先生

本症例は、思春期前でこれからIGF-1値が増えていく時期であり、年間成長速度の改善を期待してボックスゾゴ®への切り替えを検討します。
思春期は健常なお子さんにとって身長獲得の上で重要な時期です。ACHではFGFR3の恒常活性により成長軟骨帯での軟骨内骨化が抑制されてお5)思春期の身長スパートが欠如します。ボックスゾゴ®FGFR3の下流のシグナル伝達を抑制することで成長抑制への影響が緩むため、思春期の成長抑制の軽減が期待できます。
国際共同第相試験である111-301試験において、ボックスゾゴ®はACH患者さんのベースラインからの年間成長速度をプラセボと比較して1.57cm/年上乗せさせたことが報告されており、さらに長期継続投与試験である111-302試験においては、年齢、性別ごとの年間成長速度の検討において思春期のスパートこそ認めないものの、年間成長速度の上乗せは比較的維持されていることから、思春期における成長も期待できる点がポイントです。

今回の症例は、Tannar分類が1度であることから思春期前であることが伺えます。これから徐々にIGF-1値は増加し自身の身長増加のポテンシャルが上がっていく段階に入ります。ボックスゾゴ®へ切り替えることで、今後のさらなる成長の可能性にも期待できるのではないでしょうか。

ボックスゾゴ®を提案する際の患者さんや
ご家族へのICのポイント

ボックスゾゴ®へ切り替える際には、患者さんやご家族が治療を諦めてしまわないよう、ネガティブな面もポジティブに捉えていただけるような説明が大切です。

北岡先生

ボックスゾゴ®へ治療を切り替える話をすると、患者さんやご家族は、GH治療で伸び悩んでいた身長が一気に伸びるようなイメージを描いて、過剰な効果を期待されることがあります。しかしながら、ボックスゾゴ®による身長増加には個人差があり、比較的速やかにぐっと伸びる子もいれば、効果が見られるまで半年や一年かかる子もいます。中にはあまり期待したほどの伸びを示さないこともあります。治験で報告されている年間身長速度の上乗せ分は平均値である点を説明すると理解が進むかと思います。身長効果には幅があり、その評価には期間を要することも丁寧に説明することが大切です。
また、ボックスゾゴ®の注射はGHよりも痛みが強いです。刺した瞬間ではなく特に注入中に痛みを感じるようです。注射中に痛いと言わないので十分に我慢できていると思っていた子が、注射が終わってこちらに顔を向けたら泣いていたということを私も経験しました。
患者さんやご家族には身長増加効果などのポジティブなことだけが伝わりやすいです。ボックスゾゴ®治療に対する導入前の過度な期待感のため、思った効果が得られていないと感じ、注射の痛みに対するネガティブな気持ちから、治療を諦めてしまうことは好ましいとは言えません。たとえば注射の痛みについては、「GHに比べると注射がとても痛いというお友達がいるよ」などとあらかじめやや強調して伝えておくことで、「打ってみたら想像したほどには痛くなかったよ」とポジティブな表現を引き出せるかもしれません。疼痛緩和に対する前処置も積極的に講じるのが良いと考えます。ネガティブに思えることでもポジティブに捉えてもらい、治療継続へのモチベーションにつながるようなサポートを心がけることが大切だと思っています。

GH使用中の患者さんがボックスゾゴ®へ切り替えるタイミング

ACHの成長曲線を参照して、身長の推移が曲線に沿うように傾きが緩やかになってきたらボックスゾゴ®への切り替えを提案します。

北岡先生

ACHの成長曲線は健常な子の成長曲線よりもともとの傾きが緩やかで1)そのため、健常な子の成長曲線にACH患者さんの身長をプロットすると、年齢とともに曲線から引き離されていくことになるため、治療効果の判断を誤ってしまう可能性があります。一方でACHの成長曲線にプロットしてみると、GHを使用している患者さんではACHの成長曲線よりも身長が上向きに推移していることがみてとれると思います。そして身長の推移を見ると、GH治療導入初期は比較的急な傾きですが、治療経過が長くなってくると傾きは緩やかとなっていきます。ACHの成長曲線に沿うように身長の伸びが緩やかになってきたら、ボックスゾゴ®への切り替えを提案します。
切り替えのタイミングは、一律に年齢で考えるのではなく、GH開始からの治療期間、治療効果、IGF-1値、そして思春期の段階などを考慮します。またご本人が治療継続についてどうしたいと思っているのかということも尊重するようにしています。治療継続のためには骨端線が閉鎖していないことが前提ですが、本人がもっと伸びたいと思っているのか、毎日注射することが辛くないのか、そういった思いを汲み上げていくことも大切です。

ACH診療をされる
先生方へのメッセージ

北岡先生

ACH患者さんは、周りの子たちから「どうしてそんなに背が低いの?」といわれるなどして、スティグマの問題が生じてしまうことがあります。本人にとっても親御さんにとっても、低身長や四肢短縮はとても大きな心配事といえます。ACHの原因である軟骨の分化・増殖の抑制に対して作用する点から、ボックスゾゴ®はACHの成長障害や合併症に対する治療として期待がもたれています。決して合併症を無くし、プロポーションを正常化させるわけではありませんが、ACH患者さんの成長に関わるポテンシャルを引き出せる可能性があると言えるかもしれません。
一方で、ボックスゾゴ®による治療は毎日の注射という負担もあります。処方医は治療のストレスを軽減させるために疼痛緩和などへの工夫も求められます。成長障害、合併症、社会的・精神的負担、治療の負担など、トータルなサポートも加味して治療プランを考えることが大切です。その中で、ボックスゾゴ®を有効に活用していただければと思います。

今回は9歳のACH患者さんの仮想症例を取り上げ、
ACHの診療のポイントとボックスゾゴ®を検討する際の注意点について、
北岡先生にご解説いただきました。

第1回では未治療のACH症例を紹介しております。
本コンテンツとあわせて診療にお役立ていただければ幸いです。

111‐301/302試験の試験概要・安全性はご覧のとおりです。

引用文献

1)立花克彦ほか. 全国調査に基づいた軟骨無形成症患児の身長の検討. 小児科診療 1997; 60(8): 1363-1369.

2)軟骨無形成症診療ガイドライン作成委員会、国立研究開発法人日本医療研究開発機構 難治性疾患実用化研究事業「診療ガイドライン策定を目指した骨系統疾患の診療ネットワークの構築」研究班(研究代表者 大薗恵一). 軟骨無形成症診療ガイドライン

3)Harada D et al. Eur J Pediatr. 2017; 176(7): 873-879.

4)Unger S et al. Curr Osteoporos Rep. 2017; 15(2): 53-60.

5)Ornitz DM, Marie PJ. Genes Dev. 2015; 29(14): 1463-1486.